第27話 脱出! トロイメライ・コロシアム
「さぁ諸君! 砲撃エリアからエスケープだ!!」
「エスケープもなにも始まっちゃってるじゃないッスかぁ! 35.6センチ砲弾で跡形もなく死ぬなんて嫌ですよぉ!!」
「ワッハッハッハッハッ!! 重巡洋艦もおまけでいるぞ! 突っ走れェッ!!」
まだ修正射の段階だろう、地面を揺らす着弾音はそんなに多くない。
だが、もし効力射が始まったら――――――
「少佐! 街の住民は!?」
「住民なら砲撃エリアのずっと外だ、冒険者たちも体勢を立て直して今は反撃と避難誘導をしている。撃ち込むのはもう使わないこのコロシアムのみ! 元魔王軍最高幹部様を盛大にふっ飛ばしてもらおうじゃないか!!」
海に面した連絡橋へ差し掛かると、沖合に巨大な艦隊が浮かんでいるのが見える。
これから彼らがここへ盛大に撃ち込むのだろう。
その前になんとしても逃げなければ......!
「ッ! 正面に敵影!!」
連絡橋の先に、10体程のゴブリンが伺えた。
まだ残っていたか......! こんな時に!
「蹴散らすぞ!! 総員突撃せよッ!!!」
弾なんてもうほとんど残っていない、ライフルに銃剣を付けた隊員と、エンピを構えたセリカが中心となって突進。
その衝撃力をもって、さながら槍が紙切れを突き破るように正面突破。
返り血を浴びながら、俺はコンバットナイフで飛びかかってきたゴブリンを切り裂いた。
「少佐! 徒歩じゃとても間に合いません!!」
「心配ないよエルド君、とにかく正面階段まで行くことを考えたまえ」
俺は焦っていた。
まばらに1発づつ落ちてきていた砲弾が、コロシアムのほぼ中心に着弾したのを最後に飛んでこない。
それすなわち――――修正が完了し、全力射撃の寸前に来たことを意味しているのだ。
「あぁ――――――!! 死ぬ前にコローナ海軍カレー本舗さんでお腹いっぱい海軍カレー食べたかったッスー!!」
セリカに至っては絶望的だと言わんばかりに、悲壮感を放っている。
だが、大階段を降りた俺たちの前に希望は現れた。
こだますエンジン音、そこには複数の兵員輸送車両が待機していた。
「迎えに来てやったぜレーヴァテイン大隊! 乗りなッ!」
デスウイング達を監視、追尾していたあのスカウトが、先に出て車を持ってきてくれたのだ。
真後ろを警戒しながら車両へ近付く。
「1班から順に乗車! 急げ急げッ!!」
少佐に言われ、俺は機関銃の操作についた。
その瞬間、コロシアムより大量の影が姿を現した。
「"影の執行者"か......! デスウイングの最後のあがきだな、総員乗車しつつ応戦! 機関銃班は撃ちまくれ!!」
「了ッ!!!」
人型の影へ向かって、俺は兵員輸送車上部に備えられた銃口を向け、引き金を一気に引いた。
凄まじい発射音が響き、大量の鉛弾が撃ち出された。
次々と湧いてくる影を弾幕で薙ぎ倒し、部隊の撤退を掩護。
「各班長、乗車確認!」
「よし行くぞ! 出せ出せ出せッ!!!」
全員の乗車を確認すると、輸送車隊は一斉に発進した。
「海軍より通信!『我、これより全力射撃に移行せり』とのこと!!」
雷と地響きを合わせたような発射音が、海の向こうから聞こえた。
頼む......間に合え!!
「弾着まで3、2――――1......今!!!」
コロシアムが爆煙に包まれる。
雨のように降り注ぐ砲弾が石組みごと影の執行者を吹き飛ばし、やがて連中の姿も瘴気も炎へ消えた。
火の粉が頬を撫でるほどにギリギリのタイミングで、我々は脱出に成功したらしい。
安心した反動か、銃座で一気に脱力する。
「お疲れ様ですエルドさん、初仕事にしては上出来でした」
「ありがとよ......、でもまあしばらく休みが欲しいな。さすがに疲れた」
「同感ッス、では帰りましょう――――王都へ!」
後にトロイメライ騒乱と呼ばれることになるこの事件。
表向きはモンスターによるただの暴走事件で終息したが、裏では『新生魔王軍』を名乗る組織の台頭。
さらには檻が簡単に破壊できるよう細工されていたこと、ルナクリスタルを奪われた件も含め、第二次魔王戦争への引き金となったとされる。
【修正射】
本命の大砲撃のために、1発ずつ撃って少しずーつ弾着点を近づける作業。
【効力射】
上の修正射が終わった後に行う、敵を絶対ぶっ殺すという気概に満ちた大砲撃。
直撃しなくても、炸裂した砲弾の爆風や破片で敵をバラバラにして倒せるので、とにかく撃ちまくる。
(奇襲のため、修正射しない時もある)




