表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

269/380

第269話 どうぞお譲りください! さすれば目当ての成果を獲得してご覧に入れましょう!

 

 広報本部のドアがノックされる、それはとても落ち着いた綺麗な音だった。

 だが、扉を開けた広報官ルミナスは眼前の相手に背筋を凍らせる。


「参謀次長......閣下!?」

「勤務ご苦労ルミナス広報官、ラインメタル少佐はいるかな?」


 突如現れた王国軍の最上位人物に冷や汗をかきながらも、ルミナス広報官は決して無礼がないよう、最大限の注意を払って参謀次長をリビングまで通す。


 扉を開けると、そこにはコーヒーを飲んでくつろぐ勇者の姿――――


「休暇中に悪いな少佐、急ぎの用だったんでこちらから出向かせてもらった」

「これはこれは、参謀本部の長にわざわざご足労を......。ルミナス広報官、コーヒーを持ってきてくれたまえ」

「はっ、はい!!」


 駆け足で部屋を出るルミナス。


「おや、エルドくんとスチュアート1士は留守かね少佐?」

「彼らは亡命政府アルファスフィアのところへ行きました、今頃手厚い歓迎を受けている頃でしょう」

「違いあるまい、外務省が随分とエグい交渉をしたとカヴール大佐から聞いている」


 参謀次長はラインメタル少佐の前に腰掛けると、ゆっくり息を吐く。


「核兵器の威力は絶大だったよ、物理的にも......外交的にもな」

「当然ですな、無条件降伏を突き付けられた亡命政府アルファスフィアの連中はもちろん、今頃ミハイル連邦やスイスラスト共和国ですら慌てふためいているでしょう」


 やがてコーヒーが運ばれ、ルミナス広報官は足早に部屋を去る。

 そして、盗聴防止の魔法を張り巡らせた。


「大陸に核保有国が誕生したのだ、無理もあるまい。ここまでされてまだ交戦の意思を見せる魔王軍を私は讃えたいがね」

「勇気と無謀は似て非なるものです閣下、我々の力をここまで見せられてなお立ち向かおうとする"下請け"に、もはや情は無用でしょう」

「......だな」


 コーヒーを啜る参謀次長。


「少佐、ネロスフィア侵攻作戦の概要が決まりつつある。そこで勇者である君からアドバイスが貰えればと思ってね」


「なるほど」と呟いた少佐は、背もたれにもたれる。


「参謀本部の重鎮が護衛もなしに来訪された理由はそれですか」

「なーに護衛なら、最高の兵士が目の前にいるじゃないか」

「恐縮であります」


 焙煎されたコーヒーの香りが、部屋に満ちる。


「して内容は?」

「前線展開中の150個師団による総攻撃を、連合国軍司令部で検討中だ」

「魔王軍は核攻撃によりその主力を喪失しました、十分では?」


 戦力差は圧倒的だ、ここに来て躊躇し自分へアドバイスを聞きにきた理由がわからないと少佐は暗に告げる。


「わかっているとも少佐、物量で捻り潰せばいいのではないか? だろ」

「......肯定であります」

「君は『移動要塞スカー』を覚えているか?」

「あぁ、開戦初期に我が軍の列車砲で破壊したやつですか」


 そういえばそんなのがいたなと、ラインメタル少佐は記憶を辿る。


「それに搭載されていた『高出力魔導砲エーテルスフィア』が、ネロスフィアにも搭載されている可能性が高いと情報部が言っている」

「確率は......?」

「92%だ、少佐。魔導通信の傍受でそれに関連するキーワードもいくつか確認された」

「腑に落ちませんな、そんな兵器があるならなぜ海軍による魔都砲撃を許したのか」


 あれだけ蹂躪したのに、艦隊への反撃は終始通常の魔導砲のみだったと聞いていた。

 普通そんな状況なら使いそうなものだが。


「これは憶測だが少佐、連中はネロスフィアが砲撃されるなど今まで考えてすらいなかったのではないか?」

「危機管理能力の欠如も甚だしいですね、敵はまさかそこまで無能だったと?」

「過小評価しないのはいいことだ、しかしこれが一番辻褄が合う」


 もしこれが事実ならば、魔王軍はなんと対応能力の遅い集団なのだろうと思わざるをえない。

 ラインメタル少佐は、あまりの敵のグダグダ具合に思わず笑みがこぼれる。


「実に喜ばしいことです、つまり敵が慌てて引っ張り出してくるであろう魔導砲の対策を協議したいというわけですね?」

「そのとおりだ」

「でしたら――――お願いがございます」

「......なにかね?」


 少佐は頬を吊り上げ口に出す。


「閣下、我が軍の巡洋戦艦を1隻......レーヴァテイン大隊にお譲りいただきたい!」


 今まで仮面のようだった参謀次長の顔が、ピクリと動く。


貸与たいよではなく譲れということは......無事に返せる見込みがゼロということで良いのかな少佐?」

「無論であります」

「国民の血税で造った国の兵器だぞ?」

「承知しております、これは前大戦で"血を代償に戦った勇者"としてのお願いです」


 コーヒーを飲み干した参謀次長は、脳内で瞬時に思考を組み上げ――――返答した。


「さすがにそれは無理だろう......少佐」

「そうでありますか、まことに残念ですな」


「しかし」と、参謀次長はカップをソーサーに叩きつける。


「少佐、君の要望を教えてくれれば......その通りに巡洋戦艦を1隻、動かしてやらんこともない」

「了解です、閣下――――我々レーヴァテイン大隊と、後日"もう2人"やってくるであろう戦力で必ず戦略目標を達成して見せましょう」


 2人はガッチリと握手を交わした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ