第268話 散歩
賑やかな王都の街をセリカと歩いていた俺は、ふと頭から抜けていたことを思い出した。
「そういえば弾の種類が変わったんだっけ?」
俺はハンドガンからマガジンを抜き取ると、中を除く。
「はい、今までの9ミリ拳銃弾から"9ミリホローポイント弾"に変更したらしいです」
ホローポイント弾とは、通常の尖った弾と違って弾頭の先っちょがヘコんでいて一見優しそうな見た目をしている。
だがその実、人体などに当たれば弾頭が花のように開き、体内組織をグチャグチャにしてしまう非人道兵器だ。
もちろん、ネーデル陸戦条約で人間への使用は固く禁じられている。
「亜人とかにはただの弾だと効かなかったからな、ちょっと遅いがまぁ良いんじゃないか?」
マガジンを拳銃に挿し直す。
「ですね、正直ゴブリンですら9ミリでギリギリでしたから......やっと使い物になりますよ」
王国軍が正式採用している『STG44(アサルトライフル)』、『Kar98k (スナイパーライフル)』、『MG42(マシンガン)』等は7.92ミリガレリア弾や短小弾を使用しているので、一応威力が高くて不便はなかった。
しかし『MP40(サブマシンガン)』等の9ミリ口径は、正直豆鉄砲だった。
人に使うならまだしも、亜人や魔族相手だとどうしても威力が足りないのだ。
なので、今回9ミリをホローポイント弾にすることで問題解決を図ったのだろう。
「兵站部の人たちも大変ッスね、これをまた最前線まで拡充させないといけないんッスから」
「まぁウォストピアを占領してるから鉄道使えるし、なんとかなりそうな気はするが」
既に連合国軍は魔王本土の奥まで侵攻している、残すは魔都ネロスフィアのみだ。
はてさて、いつくらいに落とせることやら。
「あっ、ここじゃないッスか?」
見上げると、そこにはレンガ造りの大きな建物。
柵で囲まれており、守衛が2名ほど門に立っている。
「ほ〜、ここが亡命政府の建物か」
元連邦大使館だった建物の前に、俺とセリカは立つ。
「っ、何者だ? ここは魔王軍亡命政府の建物だ。関係者以外の立ち入りは禁じられている」
いかにもガタイの良い警務隊が、通せんぼした。
さすがに警備は万全か......どう言おうか迷った時、横にいたセリカがニヤリと笑った。
「良いんッスか〜? わたしたちを部外者呼ばわりして」
「なんだと? いくら王国軍とて関係者以外は......」
「これなーんだ」
おもむろに、セリカが俺の胸に付いた徽章を指差した。
警務隊員の顔が青ざめる。
「そっ、それは『蒼玉銀剣章』!?」
「まさか! 貴方達は......」
2、3歩前に出たセリカは、いかにもな口調で口を開いた。
「そうッス! 今時大戦で王国の勝利に多大な貢献をしたレーヴァテイン大隊の精鋭! ここの亡命政府を救出した張本人ですよ!」
震え上がった警務員が、すぐさま頭を下げてきた。
「こっ、これは失礼しました!! エルド・フォルティス様にセリカ・スチュアート様ですね!」
「わかれば良いんですよ、身体検査お願いします」
えっ......、この徽章ってそんな使い方しちゃって良いの?
俺が疑問符を浮かべている最中に、チェックは驚くほどスムーズに進んだ。
「それでは、武器の方をお預かりします」
そう言って、守衛は俺たちからハンドガンを没収した。
だが、エンピは魔法杖などとは違い危険な武器とみなされなかったらしく、そのまま持ち込みが許可された。
開かれた門を進んでいく。
「良かったのか? あれで」
「今日はうっかりアポ取ってませんでしたからね〜、これくらい強引じゃないと日が暮れちゃうと思いまして」
「なるほど。まぁ、入れたから良いか......」
ちょっと警備ザルじゃないかと思いつつも、俺たちは建物を進んだ。
「ここですね」
部屋の前に着いた俺たちは、さっそくアルミナ達がいるであろうその扉を開け――――――
「えっ?」
視界に映ったのは、こちら目掛けて凄まじい勢いで突っ込んでくるなにか。
「エルドさん!!!!」
すかさず前へ出たセリカが、エンピでそれを受け止める。
凄まじい音と衝撃が広がった。
「こりゃまた......随分ハデな歓迎だな!」
強烈なパンチを叩き込んできたのは、桃色の髪を逆立たせ、憤怒の表情に染まったエルミナだった。