第267話 平和な朝
――――王都 広報協力本部。
新型ホムンクルスを倒してどれくらい経ったか......。
いつもと変わらぬ朝、惰眠をむさぼっていた俺は軽快なラッパの音で目が覚めた。
「やっと鳴ったか......、久しぶりだな」
身を起こし、少しばかり体を動かす。
ベッドから降りてドアを開けると、そこには見慣れた茶髪の少女がいた。
「おはようございます、エルドさん!」
「おはようセリカ、そういえばお前起床ラッパ担当だったっけな。最近吹いてなかったから忘れてたよ」
「昔夜ふかししてたわたしを見かねて、少佐がいきなり指名したのが始まりだったんですよねこれ。失くしてたラッパが見つかったんで今日から再開です!」
なるほど、大方ミリタリー雑誌でも深夜まで読みふけってたこいつを見かねて、少佐が早起きさせる口実に始めさせたんだろう。
「そうか、じゃあ顔洗ってくるからリビングで待っててくれ」
「はい! コーヒー入れときますね」
「サンキュー」
そんな調子で顔を洗い、軽く口をゆすいでから俺はリビングへ向かう。
もうここの暮らしにもだいぶ慣れた、前いた学院の寮とはまるで快適さが違うし。
「おはようエルドくん、今日は久しぶりにラッパで起きたようだね」
リビングに入ると、既に起きていたらしいラインメタル少佐が新聞片手にコーヒーを飲んでいた。
「おはようございます少佐、今日も仕事で?」
「いや、久しぶりに休暇を取らせてもらったから今日はオフだ。勇者にだって休みは必要だろう?」
コーヒーをソーサーに置く少佐。
「違いありませんね、ご多忙そうでしたのでそう聞いて安心です」
「そうかね? まぁ人間休日と平日の境がなくなることが一番危ういんだ。休日にまで仕事のことを考えるヤツは必ず潰れてしまう。だから今日は悠々自適に過ごそうと思ってね」
「はっはは、おっしゃるとおりかと」
俺がソファーに腰掛けると、セリカがコーヒーを持ってきてくれた。
「エルドさん、今日予定は?」
「ん~〜特にないな、最前線はしばらく他の師団が担当しているからまだ呼集されないだろうし、かといって読む本もないしな......」
「そうですか、オオミナトさんはまたしばらくギルドに戻っているそうなので、レーヴァテイン大隊は休業状態ですね」
コーヒーを啜りながら、どこかあてがないか検索を掛ける。
そしてふと、俺は心当たりに気がついた。
「そうだ、アルミナたちが元連邦大使館に住むことになったそうだ。行ってみないか?」
「良いですね! もう敵じゃないんですし遊びにいきましょう」
「まぁ忙しいかもしれんけどな、一応亡命を手助けした身だし挨拶に伺おう」
決まりだ、俺とセリカはさっそく支度に取り掛かった。
「セリカくん」
「えっ、おわっと!?」
ラインメタル少佐が、唐突に立て掛けていたエンピをセリカへ放った。
「......なんでエンピなんッスか?」
再び新聞を広げた少佐は、コーヒーを持ちながら答える。
「いやなに、最初の挨拶はちょっとキツめなのが来ると思ってね」
「はぁ......」
よくわからんが、着替えたあとポーチに財布等を入れ、腰のホルスターにハンドガンを加え身支度完了。
セリカもエンピと腰にハンドガンを携え、いざ外出した。




