第265話 ネロスフィア砲撃
魔都ネロスフィアに警報が鳴り響く。
それは外敵がついに、この最後の砦――――最後の都市に到達したことを意味する。
ありえない、決してあってはならない事態にネロスフィアはパニック状態となった。
「住民の避難誘導急げッ!!」
「第7軍団司令部に報告!! ネロスフィア沖に敵艦隊出現!! これより応戦する!!」
そんな魔都を見つめるのは、"王国海軍 魔都奇襲艦隊"だ。
彼らは核攻撃によって魔王軍の主力を殲滅すると同時に、機を見計らって半島と大陸の中間である【ネロスフィア海】へ侵入した。
艦隊編成は快速で知られる『ダイヤモンド級巡洋戦艦』が7隻と、
さらに、支援として『ヒート・ヘイズ級駆逐艦』12隻が付随する。
壮観であり、沖合に大量の艦艇が並ぶ光景は圧倒的だった。
慟哭竜ハルケギニアとの戦闘で中破した艦も、しっかり戦線に復帰している。
遂に人類の天敵である魔都を見据え、艦隊は一斉に展開を始めた。
「あれが魔都か......、随分デカいな」
「反撃に備えろよ副長、砲撃準備!!」
主砲がゆっくりと旋回を開始し、甲板作業員待避の警報が鳴り響いた。
「旗艦 《ダイヤモンド》よりダイヤモンド級全艦へ! 統制射撃準備!」
「「「了解、旗艦の指示に従い統制射撃を開始する!!」」」
後続の巡洋戦艦隊が、次々と主砲を左舷へ向けていく。
大口径のそれが、魔王城を中心に発展した街へ向けられた。
「砲術長、目標ネロスフィア! 零型榴弾を使用! 交互撃ち方!!」
「了解!!」
ダイヤモンド級7隻が、主砲の仰角の調整を終える。
「《ダイヤモンド》、攻撃準備完了!!」
「「攻撃準備完了!!」」
「撃ちー方始めッ!!!」
35.6センチ砲から爆炎が吹き出た。
凄まじい発射音と同時に、海面がヘコむ。
発射された砲弾が弧を描いて魔都へ突っ込んでいく。
「弾着ッ!!」
無防備な市街地へ、砲弾が一斉に着弾した。
戦艦の砲というのは、威力が地上の榴弾などとは比較にならない。
たった1発で市街1ブロックがまるごと吹き飛ばされる。
それが一気にまとまって飛んでくるのだからひとたまりもない。
業火が魔都の市民を飲み込み、爆風が家ごと命を刈り取る。
「初弾! 全弾命中!」
「1番艦〜4番艦は引き続き市街砲撃! 5〜7番艦は魔王城を狙え!!」
発射した左の砲を装填のため下げ、続いて右の砲を発射した。
「《ヒート・ヘイズ》より入電、我、港湾陣地に砲撃部隊を確認!」
「魔王軍の魔導砲の射程は短い、無視せよ! 時間はない――――全力砲撃だ!!」
再び大量の主砲が放たれる。
この大砲撃を受けて、ネロスフィアは混乱状態であった。
「市街A〜Vエリアに着弾! だめです! 市民の避難間に合いません!!」
「泣き言をいうな! 貴様それでも魔王軍......うわああ!!!」
嵐のように砲弾が命中し、家々が爆散する。
倒壊した建物に多くの魔族の親子連れが巻き込まれ、火災によって焼かれた。
「反撃はまだできんのか!!」
机を叩いたのはジェラルド第3級将軍。
こだます砲撃音と揺れに、彼は激昂していた。
「元はと言えばジェラルド! 貴様の水竜軍団が制海権を確保できなかったからこうなってるのではないか!!」
「なんだとクラーク!! 貴様の魔都防空は完璧だという戯言はどこへいった!!!」
「だから今グランスフィアへ向かわせた部隊を引き戻している!! 役立たずの海坊主は引っ込んでいろ!!」
そんな喧嘩をしていると、一際大きな揺れが魔王城を襲った。
「ほ、報告! 砲弾が魔王城の敷地内に落下!! 衛兵に死者が......!」
「チッ! 魔王城本体には魔甲障壁を一応張ってあるが......」
この城には、魔王ペンデュラムが最強クラスの障壁を張っている。
だが、運悪く数発以上直撃を受ければそれも破られるだろう!
「将軍各位には、ひとまず地下への待避をお願いします!!」
「待避だと!? このジェラルドに逃げろというのか!!」
「そ、そうでは......」
困惑する伝令との間に、ミリア第4級将軍が割って入る。
「今はそんなことを言っている場合じゃないでしょう! 反撃部隊が到着するまで......わたしたちにはなにもできない!」
「クッ!! くっそおおおおおぉぉおおおお!!!!」
この一方的な砲撃はさらに3時間ほど続き、ネロスフィアの約5割が壊滅するという凄惨な事態となった。
だが、運良く魔王城は障壁が耐えるギリギリのラインで持ちこたえた。
その後、王国海軍の奇襲艦隊は速やかに撤退――――反撃をアッサリと撒いてしまった。
これにより、12万以上の魔族が死傷、またその倍の数が住処を失った......。