第264話 失敗の代償
ヤバい......! ヤバいヤバいヤバいヤバい!!
ヨロヨロと通路を歩くリーリスの顔からは、汗が溢れ出ていた。
突き付けられた"大敗北"という現実が、まるで数百トンもの重りのように彼女の肩へのしかかる。
いや、もしかしたらまだ弁明の余地があるかもしれない......あんな新兵器誰だって想像もつかない。
ドアノブを握ったリーリスは、安心を求めて何度もそう言って聞かせた
だが、自室に入った彼女の背筋に寒気が走る。
部屋の真ん中に、まっさらな羽根が1枚落ちていたからだ。
【やってくれたわね、リーリス】
「あっ......、あぁ......!」
羽根を起点に、ドンドン人型のそれが作られていく。
美しすぎる美貌の女性が、数秒後にはリーリスを見下ろしていた。
「ち、違うんですアルナ様......! こんなはずじゃ......」
涙目で訴えるリーリスを、神は冷たく見つめた。
【いい? リーリス。あれだけのリソースを一任したのに全部ダメにしちゃったのだから、"落とし前"が必要なのは......わかるわよね? 悪い子にはおしおきしないといけないの】
「いや......あっ」
指先を向けられたリーリスはかなしばりにあったように動けなくなる。
そして――――――
「あああぁぁあああああああ――――――――ッッ!? がぁっ! うあああああああああああああぁぁ――――――――――――ッッッ!!!!」
突然体を駆け回った電流に、リーリスは絶叫した。
頭の中が真っ白になり、放心状態となった彼女は膝から崩れ落ちる。
「あっ......、うあっ......! んぅ」
その場に倒れ込んだリーリスは、唾液を口から垂れ流しながらピクピクと痙攣する。
【あの厄介な勇者の妹だからもっとできるかと期待してたんだけど......、残念だわ】
「アル......ナ、様......。違うんです......、あんな新兵器があったなんて......」
【まだ足りないみたいね】
再び電流が流れ、彼女の体を破壊せんばかりに激痛が暴れまわる。
「あがあッ! あぐぅあああぁぁ――――――――――――ッ!!?」
さらに電撃を浴びせられたリーリスのスカートに、ジワジワと温かい液体が染み込んだ。
「うん......っ、くぅ......」
想像を絶する苦痛に思わず失禁してしまった彼女は、ただ嗚咽だけを漏らす。
天使の力を示す金色の瞳が、ダメージのあまり光を失う。
【あら......、ちょっとやり過ぎたかしら。ゲートを開くのにこの子の力がいるから今壊しちゃうのはマズイわね】
目の前で尿と涎を垂れ流す部下を見て、神はゆっくりとしゃがみ――――頭を撫でた。
【ごめんねリーリス、でも失敗したあなたが悪いのよ。次またしくじったら――――覚悟することね】
羽根が黒ずむと同時に、女神の姿も消える。
息を切らしたリリーリスは、ズタズタになった体を起こした。
「はぁ......っ、はぁ......」
どうにか殺されずには済んだ......、そのことにひとまず安堵した彼女は急いで浄化の魔法を汚れてしまった自分に掛ける。
――――コンコン――――
突然のノックに肩がビクリと震える。
「なに?」
過酷なおしおきで意識が朦朧としているが、なんとかドア向こうの魔王軍に平静を装って返事をする。
「リーリス様!! 緊急事態ですッ!!」
「今部屋には入らないで、ゼェッ......なにがあったの?」
「それが、それが......っ!」
――――ヴヴヴヴゥゥヴヴヴヴヴヴヴヴヴ―――――――――――ッ!!!!!!!
魔王城――――いや、魔都全体に警報が鳴り響いた。
「この魔都ネロスフィアのすぐ沖に――――王国海軍の艦隊が侵入してきましたッ!!!!」