第263話 脳震盪を起こす一撃
「戦況はどうかしら? 将軍各位」
将軍会議室に入ってきたのは、天使リーリス・ラインメタルだった。
彼女は自らが指示した決戦の行く末を、確認しに来たのだ。
「これはこれはリーリス様、万事順調! 全ての準備が整いつつあります」
そう答えたのはジェラルド将軍であった。
「自信満々ね、少しは勝機が見い出せそうなのかしら?」
「もちろんでありますリーリス様! 前線指揮官には叩き上げの精鋭であるロード将軍、さらには10万を超える内陸軍の総戦力です。負けようはずがありません」
「ふーん......」
こいつらの自信は一体どこから湧いてくるのだろう、いい加減近代兵器に対する対策でもできたのかなとリーリスは思考する。
「ならいいわ、この大決戦は魔王軍の行く末を決めるもの......必ず敵を食い止めてちょうだい」
こんなに自信満々なのだ、きっと大丈夫だろう。
なにも考えずにこんな発言できるわけがない、きっとなにか対策があるんだ。
「お任せください! 我々将軍各位――――最大限の努力でもって勝利に貢献致します!」
そんな甘い考え通用するはずがないのだ。
リーリスの期待とは裏腹に、将軍たちの自信に根拠など全くない。
全てが希望的観測、こうあってほしいな、こうなればいいだろうという憶測に過ぎない!
精々天界のために利用されろバカ共! っと笑みを浮かべるリーリスと、ここで魔法によるミラクルが起きて決戦に勝利できるかもしれないという博打脳死思考の将軍が、うまいことマッチしてしまったのだ。
つまり、この場の誰も戦況の不備について考えない。
どちらも「まぁなんとかなるだろう」と、相手に任せてしまっていた。
「魔王様はあなたたち将軍に、この決戦で勝てば最高幹部への昇格も考えると言っていたわ。特にジェラルド将軍にはね」
「身に余る光栄ですリーリス様! 不詳ながらこの決戦......私の独壇場として見せます!」
「期待しているわ」
誰も! 誰も......! 根本的な解決を考えない。
失念しているのだ、お互いに他人任せだということを。
「兵站の懸念もあるのだけど......大丈夫?」
「杞憂ですリーリス様! 努力! 根性! 気合! 忠誠心があれば補給が滞っていても軍団は動きます」
「そ、そう......? まぁそこまで言うなら大丈夫だと思うけど」
「もちろんであります!!!」
そんな根性論混じりの会話をしていると、礼儀も作法も考えずに伝令が飛び込んできた。
「ほっ! 報告!!!」
「おや、リーリス様。早速報告が届いたようです」
「あら......早いわね」
「連合国軍との大決戦開始の報でしょう、ここからが正念場ですな」
ガタガタと震える伝令兵から、質の悪い紙を受け取るジェラルド。
さっそく、その内容を読んでみた。
そして――――――膝から崩れ落ちたのだ。
「ちょ、ちょっと! どうしたのよ!」
「あっ......! あぁっ、あぁあああぁぁああああ!!??」
汗を滝のように流し、断末魔のような声を上げるジェラルド。
ただごとではないと察したリーリスは、すぐさま紙を奪い取った。
「えっ......?」
目を疑った。
信じられなかった、そこに書いてある記録そのものが......どうしようもなく。
『最後方司令部より急報。想定されていた連合国軍との大決戦は発生せず。敵は正体不明の新型戦略兵器を使用』
『現在確認中であるものの、被害は以下の通りである』
『第1〜第13梯団は、謎の超大規模爆発により指揮系統ごと消滅』
『第6軍団ゴーレム師団、および第4軍団黒魔導士連隊の被害は確認中であるも部隊消失の恐れあり』
『第14〜第22梯団は爆風により戦闘能力の9割超を消失、現在撤退中』
『構築済みだった3つの防衛拠点消滅、防衛隊も含め全滅したものと思われる』
『ロード第6級将軍戦死』
『この謎の超大規模爆発により我が軍の決戦部隊は殲滅、第2波攻撃の恐れありとのことから代理指揮官クロック大隊長はグランスフィアからの撤退を指示』
『以上が確認済み、及び確認中の被害である。また、連合国軍がグランスフィアを目指して進軍中との情報あり。大至急救援を求む』
こんな、こんなバカなことが......。
連合国軍との決戦にすらなっていない、あまりにも一方的な殲滅。
あまりにもデタラメな兵器、もうここまで来たら対策もクソもない。
そんな超兵器が本当にあったとして、どうやったら対抗できる?
リーリスの脳裏に上司の顔が浮かぶ。
完全な失態......、この決戦を指示したものとして必ず責任を取らされる......。
凄惨な結果に青ざめたリーリスは、ヨロヨロと自室へ向かった。