第261話 遅れる航空優勢
「ここに......第6軍団隷下のゴーレム部隊がいるわけだな?」
魔王城にある将軍会議室では、対連合国軍 最終防衛ラインの調整が進んでいた。
天使リーリス・ラインメタルの命令により、【軍魔都グランスフィア】防衛を実施していたのだ。
今ここにいるのは第3級将軍ジェラルド。
ミリア第4級将軍。
クラーク第5級将軍......のみである。
ギラン第1級将軍は、開戦直後に80センチ列車砲の直撃を受けて戦死。
アーク第2級将軍は、ウォストピア失陥の責任のため粛清。
ブレスト第7級将軍は先日亡命してしまった。
ロード第6級将軍は、現在最前線に赴いている。
「リーリス様は大至急とおっしゃられていたわ、第5軍団のワイバーン部隊の到着が遅れられると困るんだけど。クラーク将軍?」
催促するミリアは、地図を見ながら苛立たしそうにしている。
「そ、そうは言っても......」
「言い訳はいい! 貴様ぁ......まさか陸海空の大決戦を行うまさに戦争の分岐点という今日、ワイバーン部隊が制空権を取れぬということがどういうことかわかっているのか!!」
「そうは言ってもだなジェラルド将軍、連合国軍のワイバーンの数は異常だ! 既に第5軍団は半分以上のワイバーンが溶かされているんだぞ!」
ウォストピア防衛戦で、魔王軍のワイバーン部隊は急激に消耗していた。
数でも質でも圧倒され、ついこないだに至っては"南方海域大海戦"で700騎以上のワイバーンが、王国海軍艦隊によって撃墜された。
これは魔都に近づいた王国海軍第2機動艦隊に対しての大攻撃だったが、もはや完璧に確立された防空網によってこてんぱんにやられている。
もう使えるワイバーンは、魔都防衛がせいぜいの状態なのだ。
「もし結集中の大軍団が上空からワイバーンによる火炎放射を受けてみろ! 戦う前から戦力の漸減を許すのだぞ!!」
「し、しかしブレスト将軍やエルミナ様がいなくなってしまった今、兵站の管理がすっかりザルになってしまっている! ワイバーンの稼働率は最悪の状態だ!」
「気合と根性で飛ばさんかッ! 魔王様への忠義と忠誠心があれば飯などいらんだろう!」
「む、無茶苦茶だ......!」
そう、無茶苦茶なのである。
ジェラルドの言っていることは、軍事の基本を無視した戯言に等しい。
しかし、クラークよりもジェラルドの方が立場的に上なので、彼は無闇に反論できない。
「い、今補給の済んだ部隊から順に航空優勢確保へ向けて飛ばしています......。数時間あれば軍団上空の制空権は確保できます」
「チッ......! くれぐれも急げよ」
ジェラルドは椅子に腰掛ける。
まぁ、今回は10万の大軍団だ。
いくら連合国軍とてこの守りはどうにもできまい......。
まだ少し楽観的な態度を見せるジェラルド将軍。
彼は知らない......、この数時間後に起こる審判を。