第260話 人類史上最悪の記念日
――――王国軍参謀本部。
「さて諸君、集まったかね?」
ここ最近慌ただしかったこの場所が、今日は異様な静けさに包まれていた。
「外務省によると、現在亡命政府と無条件降伏について交渉中とのことだ。案の定、向こうさんはかなり反発している」
参謀次長は椅子に座ったまま、冷静にしゃべる。
「今日は実に素晴らしい日となるだろう、人類史に残る最大最高のショーであり、また後世から一生憎まれる記念日と言ったところだ」
「違いありませんな」
「その通り! 我々はどこまで行っても我々だ、現代戦の台頭により風情ある騎士精神は廃れたと嘆く者も多い......だが私はそうは思わない」
今にも血液が沸騰しそうなほどに高揚した参謀次長は、葉巻を灰皿に押し付けた。
「なぜなら!! 今日こそが騎士精神の廃れる記念日だからだ! 戦場と戦争の概念をひっくり返し、人類に新たな業を背負わせる審判の日だからだ」
「参謀次長、っとなると我々は全員共犯者というわけですかな?」
「共犯どころか実行犯だ中佐! 我々は今日千の森を焼き、百の川を消し、十の山を粉砕する兵器を使うのだ! 全員正気は捨てたな?」
「「「はっ!!!」」」
机をバンと叩き、参謀次長は勢いよく立ち上がった。
「実に結構!! これより『パンドラの箱』作戦を開始する!!!」
王国と亡命政府が交渉中のこの瞬間、決して開けてはいけない箱が開かれる......!!
「目標! 魔王軍10万の軍勢! 全戦線に警報を発令! これより、我々王国軍は戦争終結のため"核攻撃"を開始する!!!!」
参謀次長の命令を受け、東ウォストピアに位置する陸軍航空隊基地から何騎ものワイバーンが飛び立った。
これは核爆弾輸送用に召喚、特別に改良された重輸送用ワイバーンロードだ。
これまでのワイバーンと桁違いのペイロードを誇り、数騎掛かりで巨大な爆弾の輸送をも可能にした化け物である。
その召喚コストは魔導士1000人が3日は動けなくなるほどで、まさしく国家規模での召喚獣だった。
もちろん、使い捨てなので人は搭乗していない。
基地を飛び立ったワイバーンロードは、風属性魔法を駆使しながら加速――――護衛ワイバーン数騎と共に魔王本土を目指した。