第26話 栄光の最後
「死ね死ね死ね死ねェ!! 勇者に国家の犬共ぉ!! 街ごとその命を灰にして消えろォッ!!」
もはやドロドロの奇形な塊となったデスウイングから、大量の瘴気が溢れ出ている。
かつての記録にも載っていたこの魔法は、"効果範囲内の全ての生物を殺害する"という強力過ぎる魔法だった。
「自我を失っているようだ、可哀想に......僕が5年前に戦った時はもっと雰囲気がらしかったんだがね」
黒い瘴気で包まれる闘技場、少佐は感慨深そうに......というか全く気にせず思い出に浸っているようだった。
「少佐!! 早くコイツにトドメを!!」
拳銃をデスウイングに向けるセリカ。
「無駄だ女! 爆裂魔法でもなければ我を倒したところで瘴気は消えぬ。詰みだよ詰み! アッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャ!!!」
普通に考えれば最悪の状況、ここに爆裂魔法を扱える魔導士はいない。
弾も撃ち尽くした状態で、しかし少佐だけは笑っていた。
「1つ聞こうデスウイング、この瘴気は本当に街の人間全てを消すのかい?」
「ああそうさ! 瘴気が充満した時、中にいる者は全員が死ぬんだよ! せいぜい足掻くこったなぁ勇者ッ!!!」
「そうか、なら遠慮なく」
撃ってこい、悔しいならば斬ってみろと挑発するデスウイング。
だが俺は......俺たちは悟ってしまった、気づいてしまったからこそ全員が装備をしまい、脱出の準備を始めた。
デスウイングからすれば自然な光景に見えるだろう。
だが俺たちが逃げるのは瘴気などからではない、もっと恐ろしい文明の鉄槌なのだ。
「確かに僕1人ではまず無理だろう、だが"王国軍"ならどうだと思う」
「どういう......ことだ?」
少佐の持つ通信機は、統合任務部隊のCPに繋がっている。
ここに来るときに列車から見えた巨大兵器、海に浮かぶ鋼鉄の巨城が頭を過ぎった。
「わからないか、では言ってやろう。――――誰が直接相手してやると言った?」
「なっ......!?」
少佐は持っていた通信機を口に近づけた。
「レーヴァテインより戦闘団本部、海軍による砲撃支援を要請。目標、トロイメライ・コロシアム、全力射撃だ。我々の位置にぶち込め!」
「バカなっ!!?」
遠くで雷の落ちたような音が響く。
瘴気に溢れそうなコロシアム、観客席が大爆発を起こしたのはその直後だった。
「総員退避!! 海軍のお仲間が瘴気を掃除してくれるぞ! 巻き込まれたくなければ走れッ!!!」
王国海軍の水上艦隊による砲撃が開始、俺たちはキルゾーンの中心にデスウイングを置いて突っ走った。
爆裂魔法のさらに上、戦艦からの艦砲射撃が瘴気を消し飛ばした。
「貴様らあぁぁぁッッ!! 絶対に許さんぞおぉぉぉぉぉ――――――ッ!!!!!」
デスウイングの断末魔にも似た最後の声は、砲撃の着弾音にかき消された。




