第259話 新たなる戦い
――――アルト・ストラトス王国 王都。
「へー、結構立派な建物じゃない。こんなのくれるなんて王国も太っ腹じゃん」
通路を歩いていたエルミナが、少し先を歩く姉のアルミナに駆け寄る。
"亡命正統政府"を掲げて以降、彼女たちは休む間もなく動き続けていた。
「元々はミハイル連邦の大使館だったようですよエルミナ様、連邦大使館が引っ越してちょうど余ったここを正統政府の建物として譲ってくれたようです」
そう答えたのはブレスト元第7級将軍。
彼もまた、両手に書類を持ち忙しなくしていた。
「とにかく、調整を急ぐわよ。わたしたちが1秒でも早く動けば助かる魔族の命も増える......!」
先頭を歩くアルミナは、2人を引き連れて会議室へ急いだ――――――
「これはこれは"アルミナ魔王代行"殿、お連れの方もどうぞお掛けください」
会議室を訪れた3人は、早速2人の王国人に対面した。
「正統政府代表のアルミナ・ロード・エーデルワイスです」
「同じくエルミナ・ロード・エーデルワイス」
「正統政府統合委員長ブレストです、お忙しい中このような場を設けていただきありがとうございます」
3人は順に挨拶をすると、ソファーに腰掛けた。
「これはご丁寧に、私は王国外務省 対外交渉部長を務めるバッファと申します。こちらは――――」
「初めまして、王国軍参謀本部所属 戦務参謀官のカヴール大佐だ。今日はよろしくお願いする」
忘れている方が多いかもしれないがこのカヴール大佐という男は、過去にV−1の発射に立ち会ったり、第1世代ホムンクルスに対する戦闘規定を作成した人物だ。
「さて、挨拶はこのくらいにして......まずは貴政府の存在に対する我が国の方針を再確認いたしましょう」
バッファ部長は書類をカバンから取り出す。
「貴方達の亡命政府は、王政府として正当性を全面的に支持する方向で進んでいます。最終的に"文書"に署名していただくのは貴政府だと確信しています」
「感謝しますバッファ部長、我々としても一刻も早くこの戦争を終わらせたい所存です」
まずは現状の再確認が終了する。
本題はここからだった......。
「さて、現在でこそ指揮権は旧魔王軍が保持しており、我々は旧魔王軍首脳部の殲滅を急いでいますが......先に戦後処理についての話し合いを進めておきましょう」
「はい、よろしくお願いします」
バッファの言葉に、ブレストが首を縦に振る。
アルミナたちは早期に旧魔王軍の首脳部を撃滅し、生き残った魔族を助けるために活動している。
なんとしても条件のいい講和案を引き出さなければならない。
「戦争終結の条件についてですが、我々としての見解――――」
まだ魔王軍は多数が生き残っている、そこを差し引けばわりかし良い条件を引き出せると考えていたアルミナは......次の瞬間絶句した。
「我が王国としましては、魔王軍に対し"無条件降伏"を要求致します」
「ッ......!!!」
今......この男はなんと言った? それだけアルミナたちにとってこの言葉は衝撃的だった。
「はぁッ!? 無条件降伏ってどういうことよ!!」
「言葉のままだエルミナくん、我が国および周辺国も魔王軍の無条件降伏を要求している」
突き放すような言い方をするカヴール大佐に、ブレスト将軍がエルミナを諌めながら聞く。
「我々は歓迎されていると伺ってましたが......、違うのでしょうか?」
「無論、新政府の正当性は支持している。だがあくまで君たちと我々は戦争中の国同士なのだ。君たちに指揮権がまだないとはいえ、魔王軍が人類に攻撃を仕掛けてきた侵略者であることを忘れないでもらいたい」
「ッ......!!」
これは想像以上に骨が折れそうだと、アルミナは下唇を噛んだ。
連合国を代表する王国と、魔王軍の新政府たるアルミナたちの新たな戦いが始まった......!