第257話 終局への順序
「っということだそうだ少佐、我々の想定通り新種のホムンクルスが現れたが、君の部下たちによって見事撃滅されたらしい」
王国の植民地である東ウォストピア領内、その王国軍施設で参謀次長は満足そうにつぶやいていた。
「彼らは勇者である僕が独断と偏見で選んだ軍でも持て余す猛者たちです、むしろ当然の結果と言えましょう」
そう答えたのは、レーヴァテイン大隊のトップである大隊長ジーク・ラインメタル少佐だ。
「むしろ、彼らには僕がいない状況でもなんとかしてもらわなければ部隊として危うかったでしょう」
「彼らを試したと?」
「当然の素養を確認したまでです、レーヴァテインは言うなれば"ヤマタノオロチ"でなければなりません。頭が1つ使えなくなった程度で機能不全を起こされては困ります」
「ヤマタノオロチか......イジワルだな少佐は。君がいれば第2世代ホムンクルスなど容易に倒せただろうに」
参謀次長はコーヒーを啜る。
「それとも、あれすら先を見越した故の定期試験というわけかな?」
「物語には順序というものがあります、女神を打倒する上で必要な手順を踏んだまでです。私がここから動けなかったから彼らに亡命希望者を保護させました」
「レーヴァテイン大隊の苦労が知れるな、まぁこれで亡命政府が樹立すれば話は早い。あとはネロスフィアを堕とすだけだ」
カップをソーサーに置くと、参謀次長はニヤリと笑った。
「既に核爆弾は完成した、天界に脳震盪を起こす準備は整いつつある」
「朗報ですね閣下、弾数の方は?」
「国力を注いで現在3発が実戦投入可能だ、この3発で戦争を終わらせる」
ラインメタル少佐は夕焼けの窓を背に振り向く。
「なるほど、っとなると......」
部屋を歩きながら思案を口にする。
「戦後処理を考えても第1撃の爆心地を早急に決めましょう」
「そのことなら既に立案済みだ、見たまえ」
テーブルに広がった地図には、魔王軍、連合国軍の繊密な展開兵力が記されていた。
制空権を握ったことと、魔導通信を傍受しているので魔王軍の行動はもはや筒抜け状態だった。
「魔王軍は最終防衛線を【副魔都ドルスフィア】、【軍魔都グランスフィア】に決めたようだ。そこに数十万の大軍が集結している」
「遂に魔王本土侵攻ですか。なるほど、攻勢計画は?」
参謀次長は棒を使って端的に説明する。
「なーに戦術なんてない、あるのは戦略級の"平押し"だ」
「物量で勝る我らが、小手先の戦術を講じる意味はないということですか」
「そうなる、基本的には北部戦区と中央戦区、南部戦区にわかれるだろう」
連合国軍の基本戦略は物量によるゴリ押しだ。
圧倒的な大砲火力、機械化部隊による電撃戦である。
「北部戦区においてはミハイル連邦軍400個師団が攻勢に出る、中央、南部戦区では王国軍およそ60個師団がそれを支援する形だ」
「閣下、それでは我々の主導権が危ぶまれますが?」
「それは杞憂に終わるだろう少佐、これを見たまえ」
参謀次長が指したのは、1つの平野部だった。
「【軍魔都グランスフィア】、こここそが魔王軍最大の軍事的要衝だ。そこを守るべくこの平野部に魔王軍――――いや、バカな天界の連中は必ず軍を集結させるだろう。意地でもな」
「さきほど言った最終防衛線ですね」
「そうだ、ここを――――最初の爆心地とする!」
この数日後、エルドたちが保護した「アルミナ」、「エルミナ」、「ブレスト」を中枢とする亡命正統政府が誕生。
連合国軍はこの新政府を支持し、これにより旧魔王軍は国ではなく"地域"という扱いを受けることとなった。
円滑な講和条約を結ぶべく、新政府は連合国軍による旧魔王軍首脳部殲滅を容認する形となった。