第254話 戦闘団の全火力
「トカゲ......どもがぁ――――――ッッッ!!!」
遂に人語を叫んだホムンクルスが、火炎の中でもがき苦しむ。
どれだけ暴れても、触手は焼け切れてワイバーンを掴めずにいた。
「レーヴァテインとの距離、300」
「了解、4番から順に後退! アルファ隊、支援せよ!」
装甲車と距離を開かせることに成功したワイバーン部隊は、すぐさま空へと離脱する。
4番騎から順に火炎放射を中止して、翼をはばたかせた。
「ぬああぁッ!!」
再び触手が空中のワイバーンへ襲いかかる。
「全く手癖の悪い野郎だ」
「ッッ!?」
その触手も、支援のワイバーンが放った火球により引き千切られる。
ホムンクルスは憤怒に満ちていた。
あと少し、もうすぐそこまで追い詰めたのにという焦燥感。
女神アルナへと顔向けするため、大火傷した体をさらに増幅させながら猛スピードで追尾を開始する。
『ブラボー1より通信、第1波火炎放射の効果を認む。ホムンクルスは現在オルトナ川へ向けて進行中!』
駐屯地では、戦闘団司令部が戦況を聞いていた。
「予定どおりだな、レーヴァテインの位置は?」
「はッ! 本駐屯地より6キロ地点まで進行。オルトナ川の橋を渡っています」
「了解した、各部隊に通達! オルトナ川近辺で"最終防護射撃"を行う!」
「「「はっ!!」」」
最終防護射撃とは、接近した敵へ対し戦車砲、迫撃砲、機関銃などをもって全火力を集中させる一斉攻撃だ。
この戦法は、これまで魔王軍の部隊をことごとく葬り去ってきた。
「こちら第3警戒ライン! レーヴァテインを目視しました!」
「よし、収容を急げ!」
レーヴァテインの乗る装甲車が、とうとう駐屯地の近くまで到着した。
「こちら第3機銃班、目標接近!」
後に続くように、上空からの爆撃を受けてなおしぶとく這いずるホムンクルスが川を渡河しようとしていた。
「司令部より通信! 砲兵中隊、弾幕を開始したとのこと!」
「よーし、各銃座射撃用意! 照明弾に合わせろ!」
後方からの砲撃音が響いてしばらく――――ホムンクルスを中心として照明弾がバッと光った。
まるで昼間のような明るさにより、醜い姿が露わになる。
「弾着10秒前!」
王国軍は既に対ホムンクルス用のドクトリンをしっかりと練っていた。
基地防衛に関しては川を防衛線とし、周辺をキルゾーンに設定。
火力でもって接近を許さないという発想だ。
「徹底的にやるぞっ! 撃ッ!!」
ホムンクルスの頭上で重砲弾が炸裂する。
爆風と共に無数の鉄片が、体中に突き刺さった。
次いで、侵攻を止められたホムンクルスへ猛烈な弾幕が撃ち込まれた。
基地防衛用のMG42機銃班が、十字砲火によって左右から超高速度連射で機銃弾を浴びせたのだ。
曳光弾が連なりながら、ホムンクルスの体へ吸い込まれる。
「戦車小隊、射撃開始せよ」
――――ドドドドォンッッ――――!!!
これまた左右に潜んでいた戦車部隊が、キャニスター弾を発射した。
「ゴゴブッ......!!!」
強烈な散弾がホムンクルスを数メートル吹っ飛ばす。
倒れたそいつへ、機銃弾は絶え間なく浴びせられた。
そして、照明弾による明かりが消失すると同時に攻撃は止んだ。
「照明弾、弾着まで15秒!」
次に姿が見えた時が最後だ。
全員が引き金をしぼり、同時に照明弾が発光した。
「なッ......!!」
「うっ!?」
全員が目を疑った。
ホムンクルスはダメージを負った両腕をボトリと地面へ落とし、真っ白な羽根を生やしていたのだ。
「あぁ......主よ、この敬虔なる信徒に――――」
「撃てッ!!!」
機銃弾と戦車砲が放たれる。
「裏切り者を裁く恩寵と、主のお導きを......!!」
ホムンクルスの目が金色に光る。
直撃コースだった弾は、全てなにもない空間を貫いた。
「しまった!! 全隊後退!!」
一気に飛翔したホムンクルスは防衛線を飛び越え、駐屯地へと猛スピードで突っ込んでいった。