第251話 思考の逡巡は即死に繋がります
「ッ......!!」
亜人勇者が......3体だと!? 冗談もほどほどにしてくれ!
いくらホムンクルスだとしても限度を超えている。
いや、少しでも判断が遅れたら死ぬ......!
「全員装甲車に張り付けっ!!!」
俺の一声と同時に、セリカとオオミナトが大急ぎで車体に取り付いた。
「『爆裂魔法付与!!!』」
アサルトライフルをフルオートで斉射する、ホムンクルスこと亜人勇者たちは爆炎に包まれた。
マガジン交換を行いながら、俺は叫んだ。
「大尉! その機関砲は飾りじゃないですよね!?」
「もちろんだともエルドくん! だが俺は運転に集中せねばならん!!」
「了解です!!」
再び銃を撃ちながら後退。
俺は大声を出す。
「おいアルミナ! そこの機銃を使えるか!!」
「えっ!? わたし!?」
「そうだ! 車内からじゃ魔法は使えない! やれッ!!」
「ッ......!!!」
残り少ないマガジンを交換する。
だが、爆炎からそいつらは姿を現す。
「信心を欠いた愚か者たち」
「この世の姿たる女神アルナ様に歯向かうからには......」
「自然の摂理によって排除されねばならない」
なんてやつらだ。
俺の本気のエンチャント付き弾丸を食らってるのに。
いや、3体共に体の損傷は激しい。このままゴリ押せばやれる......!!
「引き金をひけッ!! 妹を痛めつけた連中に一矢報いろアルミナ!!!」
「ッ......!!!」
セミオート射撃しつつ下がった俺は、車体に張り付いた。
装甲車のエンジンが唸ると同時に、アルミナが叫ぶ。
「うあああああぁぁああ――――――――――――――――――ッッッッ!!!!!」
――――ドンドンドンドンドンドンッッ――――!!!!
強力な20ミリ機関砲が撃ち放たれる。
史上初の吸血鬼による実弾射撃だ。
「ガッ!!?」
これにはさすがの亜人勇者も意表を突かれたようで、体重のないその体は20ミリ砲弾の直撃によって吹き飛ばされる。
「ヒャッホー! 撃て撃てー!!」
車体にしがみつきながら、セリカがエンピを振り上げた。
「全員張り付いたな!? 行くぞ!!」
8輪あるタイヤが泥を巻き上げると、勢いよく装甲車は発進した。
さすがに20ミリ砲弾の直撃だ、無事では済まないだろう亜人勇者たちは追ってこない。
「いやー、間一髪でしたね......」
安心したのか、オオミナトの髪が銀色から元の黒色へ戻る。
『風神竜の衣』を解いたのだろう。
「いや、奴らのことだ......もしかするとこっちの思ってもみない状態で追ってくるかもしれんぞ」
「そ、そうですよね......警戒します!」
さすがに魔力の消耗が激しいので、オオミナトはワンランク下の変身である『風神の衣』を発動。
瞳だけが銀色に染まった。
「しかし、よく当てれたもんだなアルミナ」
「一応ラインメタル少佐から前会った時に教わってはいた、まさかホントに撃つことになるとは思わなかったけど......」
車の中で、アルミナはため息を吐く。
「わかったでしょブレスト将軍、こんなのを使う連合国軍に......もう魔王軍なんかが勝てないこと」
「ですね......、なんとしても亡命政府を樹立して、この破滅しかない戦争を終わらせなければ」
なるほど、ちゃんと現実を知っている彼らが亡命政府を打ち立てれば、少なくとも戦争が泥沼化することはないだろう。
戦争は降伏文書に署名してくれる者がいないと終わらないからな。
そんな感じで走行している車に掴まっていると、後方警戒をしていたセリカが叫ぶ。
「後方100! 何か来ます!!」
「亜人勇者か!?」
「不明ッス! なおも接近中!!!」
俺の爆裂魔法と機関砲を食らって無傷のはずがない。
セリカへさらに情報を伝えるよう促す。
「数は!?」
「数は......あれ、1......? って!?」
瞬間、全員の背筋が凍った。
「ブオオオオオォォオオオオオオ――――――――――――――――――――――――ッッッ!!!!」
追ってきていたのは華奢な見た目の勇者ではない。
角の生えたウジ虫の集合体のような化け物だった。
「な、なんスかあれ!?」
「ッ......! 奴らさっきの攻撃で五体満足じゃなくなったから合体でもしやがったか!? 大尉! こっちはあの化け物を迎撃します!! トップスピードで突っ走ってください!!」