第250話 神殺しのエンピ
「よくやったセリカ! オオミナト!!」
殺される寸前のエルミナを掻っ攫ったオオミナトが、親指を立てる。
一方、不意打ちで敵へエンピを叩きつけたセリカは一旦下がった。
俺はすぐさまアサルトライフルを倒れる敵へ向ける。
「こいつがホムンクルスか、なるほど確かに勇者そっくりだ」
先に逃げてきたアルミナとブレストから聞いた通り、こいつが敵で間違いない。
あと10秒遅れてたらエルミナが殺されるところだった。
情報を持つ亡命希望者を死なすわけにはいかん。
「バカな......! 人間がなぜここに」
地面から顔を引っこ抜いたホムンクルスは、憤怒にまみれた表情で俺たちを睨みつけた。
おやおや完全にキレてらっしゃる、いきなりエンピでぶん殴られて相当頭にきているようだ。
「貴様らっ! この魔族を助けにきたのか!?」
「はっ! 自分で考えるこったな。こっちはその忌々しい勇者の顔を見るだけでムカムカするんだ」
「信心の欠片もない蛮族が......! 意地でもアルナ様に歯向かうつもりか」
「ご想像におまかせする、こっちは迎えに来ただけの身なんでね」
「ほざけ人間、この私が逃がすと思うなよ......!!」
ホムンクルスが戦闘態勢に入る。
「させるかッ!! 大尉!!」
通信で叫ぶ。
すると、森を高速で突っ切ってきた装甲車がホムンクルスを盛大に轢き飛ばしたのだ。
倫理観について一瞬考えたが、相手は人間じゃないのでOKだ。
車に轢かれて吹っ飛んだホムンクルスは、突き出ていた岩に激突する。
「こっちへ!!」
運転席から叫ぶヘッケラー大尉。
ホムンクルスを轢き飛ばしたこれは、王国軍の8輪重装甲車だ。
定員は4名なので輸送向きではないが、20ミリ機関砲や7.92ミリ機関銃――――さらに広域魔導通信機を搭載しているので、敵地での運用に最適だ。
オオミナトが気絶したエルミナを車内へ入れる。
既にヘッケラー大尉に加え、逃げてきたアルミナとブレストがいるのでこれで定員となった。
「エルミナ!!」
不安気な表情でアルミナが迎える。
「もう大丈夫だ! あとは――――」
アサルトライフルを構える。
「俺たちに任せろ」
「『炸裂魔法付与』!!!」
まだ土煙に覆われたホムンクルスへ、フルオートで銃弾を叩き込んだ。
着弾した瞬間、激しい爆発が敵を包み込んだ。
「あがっ......!? ああぁあああぁああ――――――――――――ッッッ!!!??」
さすがにこれでは倒しきれんか......、だが十分だ。
「今だッ!!」
横にいたセリカが大地を蹴る。
砲弾のような速度で肉薄したセリカが、渾身の力でエンピをホムンクルスの首目掛けて叩きつけた。
「ギッ......!!」
「良いこと教えてあげるッスよ、ホムンクルスさん」
次々とラッシュを打ち込む。
ウォストピアで勇者にボコボコにされた借りを、倍にして返しているような感じだ。
「信仰っていうのは搾取するものじゃありません、祈るという行為は信者の心そのもの――――――」
ホムンクルスを打ち上げたセリカは、大きくジャンプした。
「徴収して成り立つ税金なんかとはわけが違うんですッ!!!」
「ガァあッ!!?」
めいいっぱいの力で、ホムンクルスを地面に叩きつける。
その威力は凄まじく、周囲にヒビが走った。
「オオミナトさん! 頼みます!!」
「オッケー! 任せて!!」
着地したセリカが、ヨロヨロと起き上がったホムンクルスへ突撃する。
その後方で、オオミナトは髪を銀色に染めた。
「風属性エンチャント――――『アンリミテッド・ストラトス』!!!」
エンシェント・ドラゴンを倒した時、俺たちに滑空能力を与えてくれた魔法だった。
グンとセリカの速度が増す。
どうやら、あの時よりさらに進化しているようだった。
「ありえない、ありえない!! 信仰をもたないヤツらにこの私が......!!」
「はあああああぁぁぁああ――――――――――――――ッッ!!!!!」
――――ズンッ――――!!!
回避すら許さない一撃がホムンクルスを貫いた。
腹部に突き刺さったエンピは、貫通してホムンクルスの背中から突き出る。
「嘘だ......、敬虔なるアルナ様の信徒たるこの私が......。信仰を怠った蛮族に......」
「あれ、知らないんッスか?」
エンピを引き抜いたセリカは、倒れるホムンクルスにクルリと背を向けながらつぶやく。
「エンピは神様だって倒せるんですよ」
ドシャリと倒れるホムンクルス。
歩いて装甲車まで帰ってきたセリカと、俺は右手でハイタッチを交わした。
「エンピが神殺しは大袈裟だろ」
「フフン、ペンは剣よりも強し、エンピは銃よりも強しッス!」
これで一段落だろう、俺たちが装甲車まで戻るとみんなが待っていた。
「なんと......、あんな化け物みたいなホムンクルスを一瞬で」
「ドラゴンに比べれば、そこらのゴブリンみたいなもんですよブレスト将軍。さぁ――――――基地へ行きましょう」
だが、その瞬間にこれまで黙っていたアルミナが口開く。
「おかしい......」
「えっ?」
「魔王城のホムンクルス生産工場では繭が"4つ"破られてたの......。もし今のがその内の1体とするなら......」
全員の背筋に冷たい何かが走った。
アルミナの言うことが真実なら、敵はまだ......。
「いーけないんだいけないんだ♪」
「アルナ様に言っちゃーお」
「悪い子たちは殺さなきゃ♪」
振り返ると、そこには全く同じ容姿を持つ3体の亜人勇者モドキ――――――ホムンクルスが立っていた。