第246話 逃避行
「これは派手にやられましたなぁ魔王様、なんという、なんという不幸でしょう」
アルミナ、エルミナ、ブレストの3人に逃げられたホムンクルス製造工場は、半分以上が焼き焦げる凄惨な状況となっていた。
無事だった繭を一瞥しながら、魔王ペンデュラムはヒューモラスへため息混じりの返答をする。
「まったく困ったもんだ、機密を優先して警備を置いていなかったのがこう裏目に出るとはな......」
「仕方ありません、それより天界にはどう報告いたしますか?」
「ありのままを報告するしかあるまい、......確実に機嫌を損ねるだろうがな」
「不幸ですねぇ! 実に不幸であります。いやはやそれにしても亡命政府とは......なかなか奇抜な発想をする」
剣を異空間へしまうペンデュラム。
「あの消極的なブレストからは考えられんな」
「他の将軍には、更迭されたとでも言っておきますか?」
「いや、逃亡した敗北主義者と伝えろ。それによって魔王軍内の団結をより強固にするのだ」
「なるほど、では奴らは裏切り者ということで処理します。しかし――――」
黒焦げの繭を、最高幹部ヒューモラスが踏み潰した。
「吸血鬼姉妹まで失ったのは痛いですな、大幅な戦力ダウンは避けられません」
「ヒューモラスよ、エルミナがやっていた戦時食糧庁長官も貴様が兼任しろ。これ以上魔都の食料事情を悪化させるわけにはいかん」
「了解です」
◆
――――魔王の間。
陽光の差し込むそこで、天使リーリス・ラインメタルは狂ったように笑っていた。
「あっはっはっはっはっは!!!! アハ! アハハハハハハッ!!!!」
小柄な体から生えた翼が、大きく翻る。
その様子を玉座に座った女神アルナが見つめていた。
『そんなに楽しいか? 大天使リーリス』
「ハァッ、ハァッ......もちろんでございますアルナ様。あの愚かな魔族共は我々天界に宣戦布告をしてきたのですよ? このような命知らずがジーク・ラインメタル以外にもいたとは驚きです」
明るく輝く魔王の間で、リーリスはアルナへ正対した。
「あぁ......我が偉大なる主よ、あの愚かしき魔族への神罰をお下しください」
『......リーリスよ、繭はいくつ残ったのだ?』
「半分以上は無事です、また第2段階ホムンクルスは既に【竜王国跡地】へ向かっております」
『よろしい』
女神アルナが手を振ると、強大な魔力が吹き荒れた。
空中にスクリーンが現れ、そこには逃げ続けるアルミナ、エルミナ、ブレストの3人が映っていた。
『逃避行の道のりは厳しいことを、彼らに教えてやろう』
瞬間、【竜王国跡地】を中心に巨大な低気圧が発生。
飛行船やワイバーンの飛行ができないほどの嵐が吹き荒れた。