第240話 カヴール大佐
「自爆兵......ですか」
王国軍参謀本部では、いきなり現れた不死身の自爆兵に対して対策を強いられていた。
「そうだカヴール大佐、機銃や榴弾の破片程度じゃ止まらないと聞いている」
そう言ったのは王国軍東方方面軍司令官だ。
今この部屋にはカヴール大佐と東方軍司令、そして複数の参謀官たちがいた。
さて、賢明な方ならこの場で一番大事な軍人が抜けていることに気がつくだろう。
「参謀次長が席を外している今、今は我々のみで議論するしかありません。閣下」
カヴール大佐が汗を拭く。
そう、いつもここにいるはずの王国軍参謀次長がいないのだ。
「カヴール大佐、参謀次長閣下は一体何用で席を外されているか心当たりはあるか?」
「残念ながら小官の身ではなんとも......、ただ『出掛けてくる』とだけ言って数人を連れて軍の車で出掛けていきました」
「その数人......が問題だな」
東方軍司令はギッと背もたれにもたれかかる。
「はい、小官の確認した限りでは"参謀総長"を始め"国防省長官"、"財務大臣"、"西方方面軍司令官"、王国技研の第一人者である"グロース・フォン・ブラウン博士"そして――――――"勇者ジーク・ラインメタル少佐"です!」
「かなり重大な事案だと予想がつくな」
カヴール大佐は歯ぎしりする。
またあの勇者だ......! あの少佐が絡むことにロクなことはない。
戦争を望むウォーモンガーが、重鎮を連れてなにをやらかすつもりだ!?
「はい、おそらく国家最重要機密に関連していることかと」
「まぁ気になるが詮索は我々の仕事ではない、まずは"不死身の自爆兵"について議論しよう」
「......はい」
東方軍司令は周囲の参謀官から資料を貰う。
「榴弾、機銃は効果なし......。体に刻み込んだ爆裂魔法で特攻してくる同じ顔の少女たち......か」
「はい閣下、これは以前ウォストピアに現れた亜人勇者と外見が一致します」
「つまりなにか、敵は勇者を量産したというのか?」
「先刻まで、我が王都の地下では敵のホムンクルス研究所が稼働していました。おそらくここで培ったものを基礎にある程度の段階まで持っていったのでしょう」
資料が机に置かれる。
「戦線での被害は?」
「既に我が軍では1個戦車中隊、2個装甲車中隊と8個歩兵小隊に被害が確認されております」
「ネロスフィアを目前に、厄介なのが出てきたな大佐」
「はい、有効策として戦車による"キャニスター弾"の使用がベストでしょう」
参謀本部では前線の報告をある程度まとめていた。
次に取るべき策はすぐに出てくる。
「通常の砲弾や機銃弾と違い、これらは子弾が拡散するので当てやすく、ギリギリまで引きつけて撃てば敵は自身の爆裂魔法で自爆するとのことです」
「なるほど、では早急にキャニスター弾の運搬率を上げるよう兵站部に連絡しよう。さらに歩兵部隊は戦車大隊との連携を密にする」
「それと......」
カヴール大佐は1枚の写真を見せた。
「その少女は?」
「現在レーヴァテイン大隊に所属する、オオミナト ミサキという日本人です。彼女の魔法が不死身の肉体に対して効果的だという報告を受けました」
「ほう」
「彼女は不死属性を持つホムンクルス、そして同じく不死属性のクロム・グリーンフィールドという敵を相手にほぼ勝利しています。ひょっとすると、不死属性を弱めるなんらかの効果が働いているのかもしれません」
「やはり、"転移者"というのは神の予期せぬ異物なのかもしれんな。ナチス・ドイツや横須賀海軍工廠......、彼らの転移がなければ我々はここまで発展できなかった」
天井を見上げる東方軍司令。
「おっしゃる通りです、しかし......」
「なんだね?」
「我々は......この世界で最後に誰を倒すべきなんでしょうか?」