第235話 されど会議は進まない
内ゲバのお時間です
――――魔都ネロスフィア。
魔王城にある将軍会議室は、まさしく阿鼻叫喚、蛙鳴蝉噪へと向かっていた。
「古の覇者たるドラゴンが破れただと......!? バカなありえん! ヤツは魔法攻撃を全て無効化するバリアを持っていると聞いていたぞ!!」
長机を叩いた水竜軍団の長たるジェラルド第3級将軍は、憤怒と焦りの表情を隠さなかった。
"ドラゴン"。これの意味するところは人類の破滅だったはずだ、トロイメライを制圧したと聞いた時はこれでもかと胸が躍ったのに......!
なぜだ! なぜ......!
「あ、アルト・ストラトスは我々の予想を遥かに上回る新兵器を使用と聞く。......たぶん。だからやられちゃったんじゃないかなぁ......」
そうとっても情けない声で言ったのは、以前の将軍会議にいなかった者。
名をスプーキー会議首班だ。
「ほら......あれだよ、だからみんなで会議するためにこうして集まったんだからさ。まず落ち着こうよ」
彼は、グダグダだった将軍会議に見かねたリーリスが用意した中間的な人物である。
もっとも......。
「スプーキー会議首班......、君は会議首班と伺っているがとても知的な人物とは思えんなぁ!」
睨みつけてくるのは、ゴーレム軍団を率いるロード第6級将軍。
「えーとじゃあ、ロードくんからの意見とかなんか......ある?」
「うむ、今回の失敗はドラゴンなぞという時代遅れのトカゲに任せた故の悲劇! つまり我々魔王軍が全力で挑んでこそ真の勝利が手に入るというものだ!」
そこで、水竜軍団のジェラルド第3級将軍が口を挟む。
「敗北続きの陸さんになにができようか! ついこないだもアーク第2級将軍が実質更迭されたではないか」
「貴様ぁ......! 戦争の主戦場はいつだって陸の上だ! 貴様ら水竜軍団は物資だけ運んでいればよいのだ!!」
「そうだそうだ!!」
ロード将軍と合わせて、ワイバーン軍団を束ねるクラーク第5級将軍が野次を飛ばす。
「そうは言うがクラーク将軍! 陸もそうだが貴様空での惨敗が酷いと聞くぞ! つい先日も王国領内での航空戦に敗北したそうじゃないか」
「ジェラルド将軍、必要な支援は全て行っている......! 貴様らの怠惰を我々ワイバーン軍団に押し付けないでもらいたい」
「なんだやるのかね貴様ぁ?」
「いいだろう、貴様らの軍港を全て焼き払ってもいいんだぞ!?」
「聞き捨てならんなクラーク将軍!! ところで......」
ジェラルドは今回の一応"中間的"を務める人物を見た。
「スプーキー会議首班、貴様いつまでそうしてチョコンと座っているつもりだ......?」
「え、あ......はい?」
「話を聞いていたのかね?」
「そ、それはもちろん......!!」
「じゃあ私とクラーク、どちらの味方をするのかね?」
スプーキー会議首班は、しばらく唸った後に呟いた。
「まぁー"どっちも悪かった"ってことで――――――」
「なにがどっちも悪かっただ!? 否はジェラルド将軍にあるのだぞ!! なにがどっちもだ!!」
クラーク将軍が怒鳴りつける。
そして、ジェラルド将軍も呆れ気味に答えた。
「首班......」
「な、なんだね?」
「君はなにしにここへ来たのかね?」
「それはもちろん......えっと、中間的人物としての責務をだね......」
会議を傍観していたミリア第4級将軍と、ブレスト第7級将軍がため息をつく。
そう......この会議首班。
恐ろしいまでの無能だったのだ。
「このままでは埒が明きませんわ、とりあえず今後の防衛方針を考えてみては?」
「そうだなミリアくん! さっそくそれについて話し合おう! 各将軍でなにか意見は?」
既に胃袋を痛めてそうなスプーキー会議首班が話題を振ると、ロード第6級将軍が口を開いた。
「我が軍の敵は唯一無二! 北東のボルシェビキにあり!! あの大量の赤軍を駆逐してこそ魔王軍は――――」
が、その言葉はクラーク第5級将軍によってすぐ阻まれる。
「否ッ!! まずは王国だ! あの慟哭竜を退けた王国をなんとしても粉砕せねばならん! ボルシェビキは後回しだ!」
「いやボルシェビキが先だッ!!」
またも言い合いが発生してしまう。
ここでボルシェビキこと対ミハイル連邦を意識するロード将軍が机を叩く。
「ならば『対赤一撃論』をやってみてはどうか!」
「なんだねそれは?」
「まず全戦力でもって赤軍を叩き、大打撃を与えてから返す刀で王国を撃破するのだ!」
「ほぅ、いいじゃないかロードくん」
ロードとスプーキー会議首班が勝手に決めていくことに、次はクラーク将軍が噛み付いた。
「否ッ!! 我々の戦力は残り少ない! 【竜王国跡地】にて決戦を行うべきだ!『対赤一撃論』など非現実的すぎる!」
またも喧騒に包まれる会議室。
だがここで、ようやく恰幅のいい男が手を上げた。
「えーとブレスト将軍だったっけ、なんかアイデアあるの?」
「いやですね......、再三この場で申し上げているのですが......」
「なんだね?」
「れ、連合国軍との"講話"を考えてみても......」
会議室は怒鳴り声で埋め尽くされた。
「やはり貴様敗北主義者か!!」
「我らが魔王軍が人類に降伏するなど言語道断!! 二度とそのような口を開くな!!」
この最も現実的な案は、やはり消し去られてしまう。
だが将軍会議が終わった後、ブレスト将軍は1人部屋に残っていた。
「我々魔王軍は......天界とやらの下請けでしかないというのに。どうすれば......!」
このブレストという男は、以前に魔王ペンデュラムが天使リーリス・ラインメタルに膝まづいているところを見ている。
彼だけが、この場で最も現実を知っているのだ。
「その話......詳しく教えてもらえる?」
突然掛けられた声にハッとして振り向くと、そこには氷のような水色の髪と瞳を持った少女。
吸血鬼であり魔王軍最高幹部――――アルミナ・ロード・エーデルワイスが立っていたのだ。