第232話 ドラゴンスレイヤー
ドラゴン編の最後なんでめっちゃ気合い入れて書きました
――――アクローノ地方上空。
ラインメタル少佐、エルド、セリカ、オオミナトを先行させたレーヴァテイン大隊のメンバーは、ワイバーンに騎乗しながら激烈な空中戦を繰り広げていた。
後部機銃座として撃ちまくりながら、ヘッケラー大尉は叫ぶ。
「来い――――――俺が相手だ!!」
側面から火炎弾で攻撃しようとしていた敵ワイバーンを、騎乗中とは思えない正確な狙いで撃ち抜く。
彼らレーヴァテイン大隊は、ラインメタル少佐が選りすぐりのみを引き抜いたエリート兵士。
おまけに、開戦からここまで常在戦場を続けてきた精鋭だ。
ここが空だろうと彼らには関係ない。
「後で拾えよ!!」
「なっ、おい!!」
ワイバーンを飛び降りたコッホ少尉は、ライフルに付いた銃剣へ魔力を込めた。
「はあああああぁぁぁああああああ――――――――――――――――――ッ!!!!!」
真下から火炎弾を連射しながら、魔王軍のワイバーンが降下する少尉へ突っ込む。
それを空中で回転しながら避けると、刃を敵ワイバーンの翼へ速度に任せたまま食い込ませた。
「うおおおおおおぉぉぉおおおおおお――――――――ッッッッ!!!!」
一気に翼膜と骨を切断する。
飛翔に特化した頑丈な翼が、人間の渾身の力で切り裂かれた。
撃墜したワイバーンと並んで自由落下したコッホ少尉は、上空から駆けつけた味方に拾われる。
「ハッハッハ! さすがはウォーモンガーの集まりだ! お前ら全員狂ってるぜ!!」
「褒め言葉と受け取っておこう、さぁまだ仕事は残ってるぞ!」
◆
トロイメライ市上空までなんとか辿り着いた俺は、海上の艦隊と壮絶な撃ち合いを繰り広げる慟哭竜ハルケギニアを目視した。
「あれか―――――誘導エンチャント! 魔導誘導リンクに接続!!」
ここまで撃墜されずに近付けたのも、後方で敵航空部隊を引き受けてくれたレーヴァテインの先輩方、そして危険を承知でドラゴンと砲撃戦を行った海軍のおかげだ。
この攻撃必ず当てて見せる。
「総員降下用意! 我々は降下しつつエルドくんと『V−1』を掩護する! 残存数は5発を切らせるな!!」
「了解です少佐! 慟哭竜なんていう中二の塊みたいなやつ吹っ飛ばしてやりましょう!」
オオミナトの乗るワイバーンが少佐と並ぶ。
そして、スコップことエンピを持ったセリカのワイバーンが俺の近くに来た。
「やってやりましょうッス! エルドさん!!」
「おうよ!!」
全員が降下態勢に入る。
後方から飛んで来た25機のV−1を、俺は莫大な魔力で制御――――編隊飛行させた。
「気張っていけ! この王国の防人であることを示し、竜殺しの剣となってドラゴンスレイヤーの称号を打ち立てるぞ!!」
「「「了解!!!」」」
「総員降下ァッ!!!」
4人が一斉に飛び降りる。
空中で金色と銀色の光が同時に輝いた。
ラインメタル少佐が『勇者モード』を、オオミナトが『風神竜の衣』を発動したのだ。
「ドラゴン! こっちに気づきました!!」
「艦隊の攻撃も止んでいるからな、予定通りだ!!」
焼け野原となったコロシアムの中央で、ハルケギニアを軸に無数の魔法陣が現れた。
「迎撃、来ます!!」
「オオミナトくん!!」
「了解!!」
オオミナトの周囲に風が集まった。
「風属性飛行魔法――――『アンリミテッド・ストラトス』!!!」
俺たち全員に風が絡みついた。
これはオオミナトがずっと練習していた技で、一定時間空中での制御を可能とする。
まだ滑空が精一杯だが、これで回避運動ができるのだ。
「ハルケギニア、レーザー発射! 物凄い弾幕です!!」
両翼の魔法陣から合わせて22本、中央の大口から極太のが1本。全て俺たちを指向していた。
オオミナトはさらに両腕へ魔力を集める。
「はあぁぁッ――――――――――! 滅軍戦技、『鳳凰暴風陣』!!!」
放たれた巨大な風属性魔法が、レーザーの機動を次々に捻じ曲げた。
だが――――――
「ッ......!!」
1本のレーザーがV−1を2本撃ち抜いた。
これで残存数23......!
だが、迎撃はまだ続いた。
「第2射、来ます!!」
クソッタレ!
ザッと翼から14本、周囲からさらに11本か......!!
身をよじって一気に回避する。
「させんッ!!」
ラインメタル少佐が突っ込んできたレーザー3本を蹴りで弾く。
それでも2本が掻い潜った。
「チッ! 避けろエルドくん!!」
ギリギリで回避......!
身体を掠めたレーザーは、さらにV−1の数を減らした。
残存数17......!!
「きゃあッ!?」
「ッ!!」
先頭で迎撃していたラインメタル少佐とオオミナトが、いきなり弾き飛ばされたのだ。
何事かと思い下を見ると、ドラゴンの体は大きく変化していた。
「翼が触手に変形しているだと!?」
ドラゴンは砲撃で焼けただれた翼を、対空迎撃用の禍々しい触手に一瞬で変貌させていたのだ。
少佐とオオミナトはこれにやられたのか。
2人は頭から血を流していたが、すぐに空中で立て直していた。
だが――――
「エルドくん! 避けろ!!」
迎撃の主力が一時的に消えた今、防御力は一気に下がっていた。
「ガアアァァアアアア――――――――――――――――――ッッ!!!!」
触手と口の両方から発射されたレーザーが、1本に収束して俺へ襲い掛かる。
ここまでか......!!
俺が目を閉じたその時、彼女は飛び込んできた。
「やらせるかァ―――――――――――――――――――――ッッッッ!!!!!」
割り込んできたセリカが、なんとエンピ1本で戦艦をも貫くレーザーを一身に受け止めたのだ。
「セリカお前ッ......!!」
「行ってくださいエルドさん! あなたにしか......アイツに剣は刺せませんッ!!!」
「ッ.........!!!」
レーザーを迂回した俺は、V−1をジグザグに機動させながらドラゴンへ照準を合わせる。
背後で大爆発が起きた。
「セリカさんッ!!!」
オオミナトが叫ぶ。
だが俺は決して振り向かない、あいつに託されたこの一撃を――――――
「お前に当てるまではァッッ!!!!」
17本全ての『V−1』が、レーザーをかわしながら一気に突っ込む。
「いっっけええぇぇぇ――――――――――――ッッ!!!!」
ドラゴンを大爆発が包み込んだ。
800キロの爆弾が次々に突き刺さり、鱗ごとドラゴンを爆散させたのだ。
衝撃波に煽られながらも、俺はなんとか着地する。
顔を上げると、黒焦げになった慟哭竜ハルケギニアが膝をつき――――――――
――――ズズゥンッ――――!!
その巨体を横たわらせた......。
「勝っ......た......?」
安堵も束の間、俺はすぐに上を向く。
あのレーザーを受け止めたセリカは、セリカはどうなった......!
周囲を探した俺は、だが背中をポンポンと叩かれた。
「相変わらず心配症ッスね......、エルドさんは」
振り向くと、そこにはオオミナトに肩を貸してもらったセリカが立っていた。
直前でレーザーを受け流し、彼女に空中で拾ってもらったのか......。
俺は2人を抱き締めた。
「ちょっ!?」
「ひゃ!?」
2人共血だらけの顔で驚く。
「ありがとう......! 助かった」
セリカとオオミナトは、「こちらこそ」と返事をしてくれた。
「あー作戦ご苦労諸君、今いいかな?」
いつの間にか傍にいたラインメタル少佐に驚き、俺たちはすぐに離れた。
「いやはや水を差してすまない、だが僕からもエルドくんにお礼が言いたくてね」
「はっ、はい!」
「本作戦は完遂された、よくぞあそこまでV−1を操ってくれた。称賛に値するよ」
「ありがとうございます!」
直後、通信で上陸部隊が向かっていると流れてくる。
ドラゴンとの戦争は終わったのだ、
肩の力を抜いた俺は、背を向けたラインメタル少佐に近づくも......。
おっと通信中らしい、邪魔しては悪いと離れようとした瞬間――――――少佐はこの場だと俺にしか聞こえないくらい小さな声で呟いた。
「あぁ、計画は順調......。次は――――『トリニティ』だ」