第230話 アクローノ航空戦
――――アクローノ地方上空。
レーヴァテイン大隊を乗せたワイバーン101騎は、新型兵器『V−1』の終末誘導を行うためトロイメライ上空を目指していた。
だが、目の前に海峡が迫ったところでラインメタル少佐が通信で叫ぶ。
「大隊諸君悪い報せだ、どうやら我々の新兵器をこの目で見たいというお客さんが大勢現れたらしい!」
この場合の"お客さん"とは、間違いなく敵のこと。
全員に緊張が走った。
「招待されてないのに押し掛けてくるとは、随分とマナーのなってない御仁ですなぁ!」
「その通りだ大尉! 総員戦闘態勢! 四騎編隊を形成して高度を上げるぞ!!」
少佐の指示で、100騎以上のワイバーンが編隊を組んで上昇する。
この上空で後部席の俺たちができることといったら、真後ろに着かれた時に機銃座として機能することくらいか。
「右翼78よりレーヴァテインリーダー! 下方200に敵ワイバーン発見! 魔王軍です!!」
「なるほど、なけなしの転移魔法を使って我々の行動を阻止しに来たか。いいだろう!!」
少佐が信号弾を上げる。
同時に他の先頭ワイバーンも次々と打ち上げ、ドンドン急降下していく。
敵編隊への先制攻撃が始まった。
「捕まってろよ蒼玉!!」
俺の乗るワイバーンも、まだこちらに気づいていない敵編隊へ突っ込んでいった。
「撃ちまくれぇッ!!!」
射程に捉えると同時に、ワイバーンの火炎弾とアサルトライフルの弾丸が敵部隊へ降り注いだ。
「撃墜21! 初撃としては十分か!」
王国軍と魔王軍、双方のワイバーンが入り乱れ、決死の空中戦が始まる。
幸いと言うべきか、敵にはここまでの消耗で精鋭と呼べるワイバーンが残っていないようだった。
「ちっ! 振り切れ!!」
こっちは不幸と嘆くべきか......。
精鋭がいない代わりに敵ワイバーンの数はかなり多かった。
現状被害はないが、それよりも敵の狙いが問題だった。
「諸君、『V−1』が現在チェックポイントAを通過中だ! なんとか抜けんと終末誘導に間に合わんぞ!」
そう、魔王軍の狙いは俺たちの殲滅ではなく足止め。
『V−1』の誘導を失敗させることが目的なのだろう。
「くそっ! こっちの情報はバレバレってことか!」
真後ろにくっついた敵ワイバーンを銃弾で叩き落とした俺は、思わず愚痴った。
「おそらくウチのバカ妹が偵察してたんだろう、誠に申し訳無い!」
巧みな操縦でワイバーンを操り、敵を撃墜する少佐。
妹というとリーリスか、やはり魔王軍と天使や女神は繋がっているとみて間違いない。
「なっ!?」
散りばめられた空の光。
それら魔法陣から続々とワイバーンが出現していた。
「魔王軍め......! 消耗戦も覚悟の上か!」
「四方八方から火炎弾が飛んでくるぞ! 捕まれ蒼玉!!」
空域はワイバーンで覆い尽くされた。
撃墜された魔王軍が次々と冬の大地に墜ちていく。
「『V−1』、チェックポイントCを通過! 少佐! このままじゃ.....!!」
セリカが叫ぶ。
「チッ......!」
舌を打つ少佐。
ダメだ、終末誘導まで時間がない。
見ればトロイメライ沖合に黒い影がたくさん見えた。
艦砲射撃を行う海軍がもうすぐそこまで来ているのだ。
クソが......! ここまで来て......!
「少佐! エルド! セリカ! オオミナト! そっちは先行して突っ切ってください!!!」
そう通信で叫んだのはヘッケラー大尉だった。
無茶だ、この数のワイバーンを相手に自殺行為にも等しい。
「承服できんな大尉! 命を捨てろと命令した覚えはない!」
「ハッハッハ! 冗談がお好きですな少佐! 我々全員散るつもりなんぞ毛頭ありません!! ですが終末誘導だけは間に合わせにゃならんでしょう!?」
「結構な覚悟だが勝算を考えたまえ! ここで貴官らを失うわけにはいかんのだ!」
「お気遣い痛み入ります! ですが時間がありません! ウォストブレイドでは少佐がその場に残りました! 次は我々の番です!」
どちらの言い分も正しい。
そして、我々の上官はここでの問答こそ時間の無駄だと判断したようだった。
「エルドくん! セリカくん! オオミナトくんは私に続け!! 02以下レーヴァテイン主力は戦闘を継続せよ!!」
「ご英断です少佐! ご武運を!!」
すみませんヘッケラー大尉、皆さん!
ここは頼みます!
俺は自身の乗るワイバーン周辺に防御魔法を張り巡らせた。
火炎弾を掻い潜って戦闘空域の外へ。
オオミナトの風魔法の掩護を受けて、セリカも強行突破していた。
「レーヴァテインリーダーより各位! 帰るまでが遠足だ! それだけを心得ろ!!」
「「「了解!!」」」
俺たち4騎は、トロイメライ上空に差し掛かった。
「魔導誘導リンクに接続! エルドくん! 君のエンチャントに全てが掛かっている! 頼んだぞ」
――――第1フェーズ開始まで、残り5分。




