第229話 真打ちへの宣戦布告
「ゲオルグの槍作戦発動、『ドラゴンスレイヤー戦闘団』が前進を開始しました」
王国軍参謀本部では、始まった作戦の動向を確認していた。
「さて、ワイバーン部隊がレーヴァテインを乗せて離陸したと聞く、海軍の方はどうだね?」
恰幅のいい男性軍人こと、王国東方方面軍司令官が状況を確認していた。
「第1機動艦隊はコローナ沖を既に出港、30分後にトロイメライ市を砲撃圏内に収めます」
「よろしい、しかしこの『ドラゴンスレイヤー戦闘団』、戦争始まって以来最大規模の戦闘団だが果たして上手くいくか......、なぁ参謀次長殿」
目を向けた先には王国軍参謀次長が立っていた。
「兵站、タイムスケジュール、編成、投入戦力は最大限努力したつもりだ。いかんせん攻撃の要が新型兵器と1人の魔導士なのだから確定はできんよ」
葉巻を燻らす参謀次長は、天井の絵画を見上げた。
あぁなるほど、なぜ天井にあんなものがあるのかずっと気になっていたが、こういう如何ともし難い状況だと人間はつい上を向いてしまう。
参謀本部設立時に少佐がつけるよう言っていたが、こういう時のためだったのか。
「あとはサジタリウスの矢を発射するだけだ」
ふぅと紫煙を吐き出す。
その時、部屋の扉が叩かれた。
「報告! 第19魔導レーダーに正体不明の反応を探知! 誘導任務を担うワイバーン部隊の正面です! 数は80〜90! まだ増えているようです!!」
「やはり来たか......まぁ来ない道理もあるまいて」
東方方面軍司令官が立ち上がった。
「防空警報発令! アクローノ・コントロールへ邀撃態勢を取るよう伝えろ!!」
「はっ!!」
◆
――――王国軍アクローノ演習場、V−1発射台。
「いよいよですね、遂に我が方舟の偉大な旅路が始まります......。これは歴史的瞬間になりますよカヴール大佐」
発射コントロール室から窓越しに『V−1』を見ていたグロース・ブラウン博士は、参謀本部から派遣されてきた将校に満面の笑みを見せていた。
「全くです、これが慟哭竜を仕留める矢となれば良いのですが......」
「心配はいりません大佐、誘導は参謀本部が誇る遊撃機動大隊の精鋭である勇者と蒼玉が行います、V−1は確実にハルケギニアへ突き刺さるでしょう」
カヴール大佐の表情が曇る。
「ん、どうしましたカヴール大佐?」
「いえ......、小官はこの作戦にもあの"勇者"が関わるのかと思いまして......」
「ほぉ、カヴール大佐はラインメタル少佐に対してなにか思うところでも?」
「い、いえ......。ただあの勇者は......相当危険な思想の持ち主です!」
V−1発射準備のアナウンスが流れる。
「危険とは? 大佐」
「あの男は......誰も根幹を探れないような闇を抱いています、私が参謀本部で彼と話した時は、魔王など眼中にないと言わんばかりでした......彼はとても恐ろしい目をしているんです」
『弁閉鎖よし!』
『全魔導システム、並びに魔力供給装置正常!』
「大佐、我々はパーティーなんだよ。国営のね」
「パーティー......?」
「そうだとも、冒険者なんて目じゃない。莫大な国家予算を喰らい、工廠で最新の武器を作り、圧倒的な国力の棍棒で敵を殴る――――そういう存在だ」
『1番〜25番までの全発射台オールグリーン』
『最終射出準備開始』
「我々は"国営パーティー"だ、これも全てあの少佐の考えたこと。君も私もその歯車に過ぎない――――君が何を思おうが巨大な歯車は石ころなんて簡単にすり潰し、その動きを止めることはないだろう」
『発射まで50、安全装置解除!!』
「......だからこそあの勇者は危険です! まるで神すらも敵とするような......!」
振り返ったブラウン博士は、汗だくのカヴール大佐の瞳を見た。
「ああ、それが目的だろうね」
「......えっ!?」
『全作業員待避よし!!』
『点火用意――――――――!!!!』
「さあ飛ぶのです!! 我が偉大なる舟よ! 偉大なる航路を駆け抜けるのです」
『発射まで10、9、8――――』
カヴール大佐はこれが、この一撃こそ王国がとんでもない物に喧嘩を売ることの初撃に思えた。
この国は――――あの勇者はまさか。
『5! 4! 3! 2――――――1!!』
女神アルナへの宣戦布告を、このロケットでもって行うつもりか!!!
「エンジン点火――――――――――――――ッ!!!!!!!」
超高出力魔導エンジンが火を吹き、爆炎と黒煙が爆発のように広がった。
「切り離せッ!!!」
固定装置が切り離され、『V−1』はワイバーンを遥かに超える速度で上空を駆け上った。
25本の編隊が、煙を引きながら天を貫く矢のように伸びていった。
『射出成功!! チェックポイントAにて第1誘導開始!!』
「『V−1』編隊! 本発射場からの観測圏を離脱!!」
「神に呼ばれしドラゴンよ......、これが貴様に向ける現代の剣だ......!」