第228話 ドラゴンスレイヤー戦闘団
「少佐、現実逃避しても......よろしいでしょうか?」
「あぁ良いとも、ただし離陸までには現実に帰ってきたまえ」
あぁアルナ様......じゃなかった、八百万の神様、なぜ
――――なぜ俺がこんな大役をするはめになったのですかぁ!!!
俺は、嘆いていた......というより絶望していた。
突然航空基地に呼び出されたんでなにかと思ったら、新型兵器の終末誘導を一緒に降下しながら行えだとぉ!?
しかも、相手は勇者が放つようなレーザーでバンバン迎撃してくるらしい。
命を捨てるようなものだ。
「おやおや〜? エルドさんブルっちゃってるんですか? もしかして遂にストレスでSAN値ゼロになっちゃいました?」
ニヤニヤしながら、青ざめていた俺を覗き込むオオミナト。
「うっせうっせ、ってかお前も来るのかよ」
「当たり前じゃないですか、っというより第1中隊は軒並み動員らしいですよ」
「あぁ、それでこんなにワイバーンがいるのか」
レーヴァテイン大隊は300人を3個中隊で分けている。
今回は誘導要員の護衛として、第1中隊みんなでワイバーンに乗ってトロイメライまで行くらしい。
まぁ俺1人突っ込まされるわけじゃないらしいので、ひとまず安心である。
そんな感じで現実を見つめ直した頃、待機場へ呼び出しが掛かった。
「おはよう大隊諸君、今日は実に良い天気だ――――絶好の飛行日和と言って良い」
我らが大隊長、ジーク・ラインメタル少佐の訓示が始まった
「さて、本作戦は至ってシンプルだ。海軍が押さえつけているドラゴン――――"慟哭竜ハルケギニア"へ800キロの爆弾を叩きつけるという至極単純明快な攻撃である!」
少佐は拳を握った。
「我々は20分後にワイバーンに乗ってチェックポイントEへ離陸、上空で誘導されてきた『V−1』をエルドくんが引き継ぎハルケギニアへぶつけるという算段だ」
「少佐!」
「なんだねセリカくん」
「我々レーヴァテイン大隊はどこまで行っても歩兵です、ワイバーン搭乗経験はほぼないのですが......」
「その点についても心配ない、ワイバーンの操縦は前部座の竜騎手が行う。貴官らは万一に備えたまえ」
万一ってなんだろう......。
ここは王国領内なのに万一などあるんだろうか。
「本作戦はエルドくんの終末誘導に全てが掛かっている、確実かつ冷静に、全神経を集中させて護衛を努めよ!! ......でもまぁ無駄な緊張だけは捨てていきたまえ、撃つ場所が陸から雲の上に変わるだけだ。諸君らはレーヴァテイン第1中隊を飾る生粋の戦闘員、大隊長として奮戦を期待する」
「「「「「はっ!!!!」」」」」
そうしてあっという間に作戦開始時刻がやって来た。
基地が一気に慌ただしくなる。
『現在時刻10:00! これより、対ドラゴン討伐オペレーション"ゲオルグの槍作戦"を開始する! 誘導騎、護衛騎は順次離陸せよ!』
「さぁ行くぞ諸君! 誉れ高きドラゴンスレイヤーの称号とキルマークは、我々レーヴァテイン大隊にこそふさわしい!」
先陣を切って、ラインメタル少佐の搭乗騎が離陸した。
あの人だけは自分で操縦しているようだ。
ふと、滑走路脇を見ると基地に残る陸軍航空隊が見送ってくれていた。
「頼んだぞ! ドラゴンスレイヤー戦闘団!!」
「トロイメライを取り返してくれ!!」
「蒼玉と勇者に武運あれ!!」
俺は軽く手を振ると、しっかり離陸態勢を取った。
「俺の運転は荒いからな、振り落とされるなよ!」
「かじりついてでも堪えて見せますよ、離陸お願いします!」
「はっ! 気に入ったぜ蒼玉! じゃあ行くぞ!!」
翼を羽ばたかせたワイバーンは、滑走路を走ると一気に離陸した。
もの凄い勢いで基地が――――地面が遠ざかっていく。
周りに見えるのはレーヴァテイン大隊を乗せた無数のワイバーンと、太陽の輝く蒼天、眼下に広がる王国領だった。
「大隊諸君気張っていけ! 我らが祖国の鉄槌をドラゴンに浴びせるのだ!!!」