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第223話 劇場《セカイ》の真実

 

 俺の問いにしばらく沈黙した少佐は、ゆっくりと手を胸の前に持っていき。

 ――――――拍手した。


「正解だエルドくん、我々が打倒すべき真の敵は魔王軍などではない――――女神アルナだ」


 この場に榴弾が落ちたかのような衝撃だった。

 勇者であるラインメタル少佐が、ハッキリとその言葉を言った.....言ってしまったのだ。


「め、女神アルナ様が......敵? なんの冗談ッスか少佐......、敵は魔王ペンデュラムじゃ......」

「もちろんペンデュラムくんが敵であるのは間違いない、だがヤツらは下請けに過ぎん。元となる"依頼者"――――発注元を潰さねば我々の戦いは永遠に終わらんだろうさ」


 少佐の言うことが正しいなら、神は――――女神アルナ様は俺たち人類を攻撃するために魔王軍を送り込んでいることになる。

 なぜ、なぜだ。


「簡単なサイクルだよ、今までなら魔王軍が攻めれば人類は窮地に陥った。追い詰められた人類はがむしゃらに神に祈る。そうなれば溢れんばかりの信仰が生まれていた」

「じゃ、じゃあ勇者というのは......」

「神への信仰、信頼を絶対とするため――――集められた信仰の力を行使できる人間のことだよ。神の代行者である勇者が神格化されればさらに信仰が集まるというおまけ付きだ」


 なんてことだ......。

 完全なマッチポンプじゃないか、これで色々理解できた。

 なぜ祈るという人間なら当たり前の行為がダメなのか、それは僅かな信仰でさえ人類の敵である女神アルナの養分となってしまうからだ。


 少佐がなぜ全盛期の力を発揮できないか。

 それはラインメタル少佐自身が勇者の"神格化"を食い止め、自分を通じて流れこむ信仰を食い止めたんだ。


 リーリスが言っていた「困ってるくせに」という言葉......。

 あれはそのままの意味、信仰が減れば減るほどそれをかてとする勇者の力もまた弱まるのだ。


「め、女神様が敵なら......わたしたちは何を信じればいいんですか!?」

「ショックなのは理解しているセリカくん、だがこれが、この劇場せかいの真実なのだ。最大の信仰対象は――――――世界最悪のマーダーなのだ」


 アルナ教を国教とするこの国では、神=アルナだ。

 それを否定されれば、人間が無意識下で依存していた柱が消えることに等しい。


 もしこの話が世間に漏れたら、どうなるかは想像に難くないだろう。

 社会は大混乱、経済は停滞、後方はもちろん前線の王国軍も機能不全を起こしかねない。


 さらには各宗教団体がどう動くかわからない、下手をすればアルナ教総本山であるスイスラスト共和国に宣戦布告される可能性すらあるのだ。


 ソースが勇者であるラインメタル少佐だけに、この話が国家最重要機密であるというのも頷ける。


「この機密を他に知っている方は......?」


 ヘッケラー大尉が汗だくで質問する。


「現王国政府上層部の一部官僚、現参謀本部総長および参謀本部次長、そして国王陛下だけだ。彼らにはもう昔に説明を行い――――信仰を減らす取り組みに協力してもらっている」


 いずれも王国のトップクラス......!

 この国は魔王戦のその先――――"神との戦争"すら見据えていたというのか。


「でもまさかアルナ様が敵だなんて......」


 あまりに身近な存在が黒幕であると知ったセリカは、かなりショックを受けているようだった。


「まー日本では八百万の神々っていう宗教思想でしたし、アルナ様っていう神様がダメだったら他の神様を信じてみてもいいんじゃないですか?」

「か、神様は唯一神であるアルナ様だけなんじゃ......」

「そんなことないですよ、わたしのいた世界じゃその辺の山や川にだって神様はいるんです。なので、この世界だってアルナ様っていう方以外にも色んな神様がいると思いますよ」


 オオミナトの国――――日本では"神道"なるものが昔盛んで、今でも無意識下で日本人の心にある宗教らしい。


「日本じゃ神様がいっぱいいて当たり前だったんですか......」

「外国からの神様もいるし、秋はハロウィン、冬はクリスマス、元旦には初詣とかとにかく多様性はあったんじゃないかな......」

「ふむ、実に面白い。それだけ神がいればマーダー1人に力が渡りすぎることもないだろうな。使えそうだ」


 なにやらラインメタル少佐はもう女神を打倒した後のことまで考えているらしい。

 重かった空気が少し軽くなった瞬間、奥の扉がノックされた


「入れ!」


 扉を開けたのは、別室で警戒待機していたルミナス広報官だった。


「重要会議中失礼します! 少佐!!」

「なにごとだ」

「先程16:55、トロイメライ市近海に正体不明の飛行生物が出現! 通報によると巨大なワイバーンのような姿をしており、市に一直線で向かっているとのことです!」

「対処は?」

「同市周辺の『終焉のラッパ』警戒監視中だった《駆逐艦ゴッド・ウインド》、並びに《軽巡洋艦ビック・ウェル》が対空砲火を展開中! アクローノ基地のワイバーン部隊もスクランブルしました!」


 全員が席を立った。


「諸君! どうやら向こうさんの方が先手だったらしい、天使の吹くラッパに導かれて招かれざる客がやって来たようだ」


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