第218話 勇者システム
「リーリス・ラインメタルって......、少佐と同じ名前!?」
見上げるオオミナトが、ラインメタル少佐とリーリスを見比べる。
端正な顔立ちと、なにより特徴的な金髪が2人に血の繋がりを感じさせた。
リーリスと呼ばれた少女が、ゆっくりと地面へ降り立つ。
そして黒焦げになった竜人を一瞥した。
「ご苦労さま、アーク将軍――――あなたの尊い犠牲によって我らが偉大なる主の崇高な目的は、また一歩完成へと近付いたわ」
竜人の体から金色の魔力が吹き出た。
「なっ!?」
空へと登ったそれは柱のようにそびえ立つと、まばゆく王都を照らした。
なんだ、あいつは何をしているんだ......!
「"竜の灯台"設置完了......、どうお兄ちゃん! お兄ちゃんが愚弄している勇者の力! これがあれば古の王者をこの世界に呼ぶことができるのよ!!」
「古の......王者!?」
「そうよ"転生者"! お前のような異物と違い、確固たる存在として君臨する生物の頂点――――ドラゴンを召喚するのよ」
興奮している様子のリーリスは、気が狂ったかのような笑みを浮かべていた。
「相変わらずくだらんなリーリス、天にこき使われて灯台守にでも目覚めたかい? ドラゴンなぞこの世界に呼んでどうする」
「あら、お兄ちゃんならもうわかってるんじゃないの? 簡単な話――――あなたたちは勝ちすぎたのよ」
リーリスは両手を大きく広げた。
「勝ちすぎた人類はとうとう神に祈らなくなった......偉大なる主はこれら諸問題の解決に踏み切ったわ」
「ほぅ......、具体的には?」
「"信仰の強制徴収"。気高くも素晴らしい主は従来のシステムを維持するためにとうとうご決断なさったのよ」
「なるほど、足りなくなった信仰を暴力によって補填するとは......マーダーらしいエゴに満ちた発想だ。自由意志を踏みにじるなんて知性の欠片もないと見える」
「キャッハハハ! お兄ちゃんだって内心困ってるくせに〜」
大笑いするリーリス。
困ってる? 少佐が?
なにをと思ったところでリーリスが口を開いた。
俺が全く知らなかった最強の力の原理を。
「勇者の力は神への信仰によって発動される、人々が神を崇めている時期は勇者が強くなり、逆に信仰がされていない時ほど――――勇者は大幅に弱体化する。......現在みたいにね」
ラインメタル少佐の表情は変わらない。
「お兄ちゃんはこの数年――――主への信仰を消し去ろうと走り回った、おかげで人間の軍隊は近代化。魔王軍の敗北で人々は余裕を持ってしまい祈らなくなった。従来の勇者システムを維持するほどの信仰は当然足りなくなる......」
石畳を踏み砕くリーリスの顔には、憤怒の色が浮かび上がっていた。
「ホントやってくれたわねクソ勇者......、自身の弱体化なんて計画の内ってわけ?」
「アッハッハッハ! クソマーダーの駒使いにしてはよく知っているな。そうだとも、我々人間は自由意志の生き物だ! あんなくだらないサイクルはぶち壊して然るべき! 神が全てを操る時代はもう終わったんだよリーリス」
「主の唯一の過ちは......、やはりお前を勇者にしてしまったことね。お前も元はこちら側の経営者のはずだったのに......」
「残念ながらマッチポンプ営業に手を貸すつもりはさらさらない、下請けの魔王軍が機能しなくなったからドラゴン頼みとは......つくづく短絡的と言えよう。それにダメな会社から転職するのは社員の持つ権利だろう?」
「あー、つくづくイラつくやつ......!」と、リーリスは髪を掻きむしった。
「じゃあ見せしめが必要ね」
リーリスの背中から再び翼が翻った。
「そこの茶髪の人間2人、主の下に導いてあげる」
「ッ......!」
光が瞬いた――――瞬間だった。
「がッ......!?」
セリカ母の体を、一瞬にして剣が貫いていたのだ。
「っ......!? お母さんッ!!!」
「セリ......、カ......っ」
膝をつくセリカ母の足元に、大量の血が流れ落ちた。
「まず......、1人」
恍惚な表情で、リーリスは俺たちを見つめていた。