第217話 親子と兄妹
セリカの持つエンピによって貫かれた竜人は、最後の咆哮すら上げることなく息絶えた......。
周囲には静寂と瓦礫が転がっており、いかに激しい戦闘だったかを物語っている。
「や、やった......」
エンピごと竜人を降ろしたセリカが、その場に座り込む。
「セリカ!!」
俺の横を駆け抜け、セリカ母が娘を抱き締めた。
「わぷっ......! お母さん!?」
「ホントあんたはいつもこんな無茶して! 殺されちゃうんじゃないかってヒヤヒヤしたじゃない!!」
「ご、ごめんなさい......」
セリカ母はギュッと娘を胸に寄せると、その茶髪を撫でた。
「でも......、かっこよかったよ」
「えっ?」
顔を上げるセリカ母。
「アンタはやっぱりわたしの娘だ! 強くて凛々しくてカッコイイ! どんな怪物相手にも一歩も引かない、仲間と一緒に人を守る最高の娘だ!!」
「でも......、お母さん朝は――――――」
「うん、確かに朝はアンタに"辞めなさい"なんて酷いことを言っちゃった......。でも見せつけられてわかった、アンタはもう冒険者よりもずっと凄い仕事に就いている! あの勇者様も認める凄い娘になってた!」
ラインメタル少佐が前に出る。
「その通りです、彼女はもはや我が大隊になくてはならない精鋭中の精鋭。勇者である僕や天才であるエルドくんと肩を並べられる兵士です。それに彼女が抜けたら――――」
チラリと俺の方を見る。
「ウチのミリオタが悲しんでしまいますからね」
「ちょっ、少佐!!」
「アッハッハッハ! まぁなんだかんだ言って愛されているんです、ですから......」
立ち上がったセリカ母の前まで来た少佐は、軽く頭を下げた。
「どうか我々に娘さんを――――信頼して預けていただけないでしょうか」
俺とオオミナトが少佐の横に立つ。
「我々は王国の最精鋭レーヴァテイン大隊、剣林弾雨をかいくぐり、生きて死屍累々の道を踏破する選ばれし者だけの部隊です。約束しましょう――――――娘さんは我々が必ず生きて返します」
気がつけば雪が止み、青空が雲の切れ間から覗いていた。
日差しが差し込む――――俗に言う"天使の階段"という現象だろう。
やがて、セリカ母は立ち上がったセリカの背中をバンと叩いた。
「ウチのバカ娘を頼みます! 皆さん! 行っといでセリカ! お前の道はお前だけものだ!」
「ッ......! 了解ッス!!」
「くれぐれも大隊の皆さんに迷惑掛けるんじゃないよ! でも疲れたら、いつでも家に帰っておいで!」
これにて今回の騒動は一段落と言ったところか。
巡り巡って色々あったが、終わりよければ全てよし。
そう思うことにした――――――束の間だった。
ゴ――――――――――ン!!
「っ?」
何か巨大な音、まるで超重低音のラッパが鳴らされたかのごとき爆音に全員が耳を塞いだ。
「なんですか......! この音!?」
オオミナトがたまらず膝をつく。
「クソわからん! 少佐!」
「あぁ! 全員警戒! "クソビッチ"の終焉のラッパだ!!」
ラインメタル少佐がよくわからない単語を叫んだ瞬間、俺たちを何かが影で覆った。
それはまるで......真っ白な鳥の翼のようだった。
"天使の階段"を背後に輝かせたそれは、宙に浮きながら腰まで伸びた金髪をなびかせる。
「偉大なる主のことをクソビッチだなんて、裏切り者の勇者は変わらないわね」
背中からは翼が生えており、その碧眼で俺たちをゴミのように見下していた。
「やはり来たか......相変わらずクソ忌々しい顔だリーリス・ラインメタル」
「久しぶり――――――ジークお兄ちゃん。そっちこそ憎たらしい顔は変わんないわね。裏切り者のクソ勇者」
この物語もとうとう最終回がぼんやりと見えてきました。
まぁ......既にプロットにない部分をずっと書いているわけですが、まだ結構続きそうですので頑張って書きませう