第215話 VSアーク第2級将軍
「貴様ら......! 貴様ら貴様ら貴様ら!!」
なんと驚くことに、竜人が喋ったではないか。
まさかの自体に一瞬驚くが、戦闘態勢は解除しない。
俺はセリカ母の前に立ち、新品の障壁を張った。
「見てやってください、あれがセリカの成長した姿――――彼女の誰にも負けない強さです」
竜人は再び咆哮を上げると、その右手に金色の光を宿した。
「なっ!」
今まで素手だった竜人が、光の剣を握ったではないか。
この輝き......この能力、間違いない、ウォストピアで出会った"亜人勇者"の能力だ。
金色の光を目に宿した竜人が突っ込んでくる。
「よし行くぞ! 冒険者の意地を見せてやれッ!!」
「ウオオオオォォオオオオオッ!!!」
近接職の冒険者が、次々と迎撃に向かう。
「みんな! 頑張って!!」
さらに竜人の後方、道路をまたぐ橋の上で魔導士の女の子が能力上昇のサポート魔法を掛けた。
俺たちにも例外なくそれらの恩恵が降り注ぐ。
「おぉーバフですか! ありがたいですね!」
『風神の衣』を発動して、瞳を銀色に染めたオオミナトが喜んでいる。
さてこちらは数が多く、連携も上手く行っている。
だが竜人は一歩も引いていなかった。
「なんだこいつ......! ぐあっ!!」
「囲め! 数の差を活かすんだ!!」
なんて野郎だ、能力上昇魔法の掛かった高レベル冒険者を、その手の剣でアッサリ薙ぎ払っている。
振られた剣は猛烈で、石畳がプリンのようにえぐられた。
「よっしセリカさん! わたしたちも行きましょう! これは負けていられませんよッ!」
疾風のように黒髪をなびかせ、オオミナトが突っ込んだ。
「死ねっ! 死ね! 忌まわしき王国人めぇッ!!」
竜人の剣が振り下ろされる。
「タンクッ!!」
オオミナトが叫んだ直後、失速した彼女を追い越して盾持ちの冒険者が前に出た。
強烈な一撃が、シールドによって受け止められる。
「今だオオミナトさん!!」
「ナイスタンク!!」
かまいたちを発生させたオオミナトが、すれ違い際に竜人へ斬撃を与えた。
一撃離脱で、彼女は反対側へ突っ走る。
攻撃を受けた竜人もオオミナトを追いかけた。
「次っ!」
「了解!!」
さっきまで薙ぎ倒されていた冒険者たちが、今度は複数人掛かりで竜人の剣撃を弾いたのだ。
すごい、俺たちがウォストピアで遠征している間にもオオミナトはさらに冒険者同士の連携を磨いていたのだ。
「セリカさん!!」
「はああぁぁあッ!『ソードパニッシャー』!!」
横から突っ込んだセリカが、エンピによる強烈な攻撃をお見舞いした。
道路脇の建物へ竜人が突っ込む。
しかし、竜人は瓦礫を押しのけて咆哮を上げた。
「えぇいタフなヤツ......! 第2小隊! 援護お願いします!」
セリカが通信を発した直後、竜人の身体に無数の弾丸が降り注いだ。
――――ダダンっダンダンッ、ダダダダダダダダダッ――――!!!
大通りに隣接する階段から、増援で駆けつけたレーヴァテイン第1中隊数名がアサルトライフル、スナイパーライフルをもって銃撃したのだ。
硬そうな角が折れ、鱗にヒビが入る。
「お前たちは......、お前たちだけは許せんのだぁッ!!」
瞬間、竜人の口から発砲炎目掛けてブレスが吐き出された。
「くそ、退避っ!!」
階段を飛び降りることでレーヴァテイン隊員たちは攻撃を回避。
薙ぐようなブレスは、Yの字交差点を区切る建物を溶断しながら街を破壊した。
「やべっ!!」
飛んできた破片からセリカ母を守るため、防御魔法の出力を上げる。
「きゃあ!」
瓦礫が当たるが、さすがにこの程度で俺の防御魔法は砕けない。
「クソッタレが、銃が効かないならこいつをくらわせてやる!!」
最近補充要員で入った新米兵士が、対戦車無反動砲を構えていた。
なるほど確かにそれなら大ダメージを与えられる。
これ以上街への被害を出すわけにもいかん。
「発射ッ!!」
撃ち出された対戦車無反動砲は、真っ直ぐ起き上がった竜人へと飛翔していった。
間違いなく直撃コース、だがそれは相手が動かなかった場合だ。
竜人は凄まじい反射神経で、首を捻って無反動砲を避けたのだ。
「やべッ!」
新米兵士が叫ぶ。
無反動砲の飛んだ先――――竜人の後方にはバフを掛けてくれている魔導士が橋の上にいたのだ。
当たる――――――ッ!
そう誰もが思った瞬間、漆黒の風が魔導士と無反動砲の間に割って入った。
「まったく、前方もしっかり確認したまえ」
割り込んだ人物は、なんと剣で無反動砲弾を弾き返したのだ。
180度反転した砲弾は弧を描きながら竜人の背中に直撃、そいつは遂に膝をつく。
魔導士を守ってスタリと地面に着地した男は、黒い軍服を纏いながらメガネの位置を直した。
あんな離れ業ができるのは、大陸中どこを探しても1人しかいない。
「遅くなってすまないね皆、さぁ――――迷惑な暴れん坊にはご退場頂こうか」
我らが大隊長――――ジーク・ラインメタル少佐の登場だった。