第214話 武器なしの戦闘
「ガアアアアアァァアアアアアアアッ!!!!!」
けたたましい咆哮を上げたそれは、まさしく"竜人"と呼ぶにふさわしい外見をしていた。
そいつは一切の躊躇なく、俺の防御魔法へ詰めると障壁をぶん殴った。
「きゃあ!?」
「大丈夫です! この程度で――――」
俺は逆に障壁をヤツの前面へ押し出す。
「無限の魔力の壁を超えれるかァッ!!!」
竜人を押し返すと、防御魔法を解除すると同時に『身体能力強化』を発動する。
「ぶっ飛べッ――――!!!」
思い切り蹴り飛ばす。
武器がない以上、親から貰ったこの手足だけが頼りだ。
なんとしてもセリカ母だけは守らなければならない。
「エルドさん......!」
「下がっててください、大丈夫、あなたには指一本触れさせません」
俺は持っていた通信機のスイッチを入れた。
「レーヴァテイン04より周辺の王国軍部隊へ! 敵性の特別危険モンスターは中央噴水広場前に到達! 民間人が取り残されています! 大至急イルミナ通りへ完全武装した1個小隊以上の兵士による増援を求めます!!」
広域へ通信を発した直後、すぐに返答が帰ってくる。
「こちらレーヴァテイン02、ヘッケラー大尉だ。現在レーヴァテイン第1中隊が車両にて急行中、現着予定時刻は3分後の16:05――――送れ」
「こちら04、助かります大尉! しかしえらく速いですが前から準備を?」
「既に参謀本部より出動命令が下っている、いいか! なんとしても民間人を守りきれ!!」
「了解!!」
通信を切る。
上の決断は凄まじく迅速――――なら時間は味方したも同然だ。
「ガアアアアアァァッ!!!」
再び突っ込んでくる亜人。
「来やがれッ!!!」
俺はさらに魔力を高め瞳を紅色に染めると、正面から竜人と取っ組み合った。
「ッッ!!?」
『身体能力強化・絶』を発動しているのにも関わらず、俺は危うく押し倒されるところだった。
「ぐぬっ......! ズアァアっ!!!」
思い切り蹴飛ばす。
のけぞった竜人へ、前に休暇中セリカから習った近接戦闘術を叩き込む。
「ふっ! はッ!! おらぁッ!!!」
クソ硬い胸板を殴りつける。
なんつー野郎だ、殴ってるこっちの拳がもたんぞ。
「ガルアァァアッ!!!」
「うおっ!?」
振り下ろされた攻撃をかわす。
その威力は凄まじく、地面に砲弾が落下したかのようだった。
飛び退きながら、俺は飛んできた大きめの瓦礫を掴む。
「『炸裂魔法付与』!!」
投げつけた瓦礫は、竜人に当たった瞬間に爆発。
隣接する建物のガラスが同時に砕け散った。
「グオアァァああああああッ!!!」
「ッッ!!」
とんでもないブレスが煙を貫いて突っ込んでくる。
「させるかッ!!」
再び防御魔法を展開。
セリカ母の前で踏ん張るが、徐々に押されていく......。
「ッ――――――!!『身体能力強化!!』」
能力強化で一瞬踏みとどまるが、それでもまだ竜人のブレスに押される......!!
「この.....! 身体能力強化・絶!!」
限界まで力を底上げする。
だが、こんな無茶をすれば俺の体がもたないことは自明。
ここまでかと思わず悟った時、上から聞き慣れた声が降った。
「ナイス生存フラグ!!」
風が吹き荒れる。
それは、我らがレーヴァテイン大隊お抱えの魔導士によるもの。
「『ウインド・インパクト』!!」
割り込んできた暴風が、竜人のブレスの軌道を逸らす。
直後、驚く竜人の前に小柄な人影が降り立った。
「親と友達の危機――――ここで駆けつけなきゃ軍人としての名が廃るッスよ!!」
凄まじい威力のエンピをくらい、竜人がさらに後方へ吹っ飛ぶ。
「なんだ、思ったより早かったじゃないか」
俺の目の前には、黒髪と茶髪――――2人の少女が立っていた。
俺の後ろにいた親御さんが叫ぶ。
「セリカ!!」
「やっ、お母さん。ちょっとエルドさんの後ろで待っててください――――あのクソ野郎を今からオオミナトさんとエンピでボコボコにするんで」
セリカとオオミナト、さらには周囲の冒険者たちが集まり剣を構えて俺たちの前に出た。