第21話 影の者たち
――――コロシアム最奥、商品保管庫。
巨大な柱に挟まれたカーペットの上、装飾で覆われた箱をその者はゆっくり開けていた。
黒色のローブの隙間から、美しく手入れされた金髪が覗く。
「やっと......手に入った」
かぶっていたフードを払ったのは13歳ほどの少女で、その白い手には最上級レアアイテム・ルナクリスタルが握られていた。
「待ちくたびれたぞリーリス、これでようやく魔王様の悲願も叶うというものだ」
少女をリーリスと呼んだ者の外見は、一言で表すなら"影"。
それこそ全身をローブで覆ったような見た目の存在へ、リーリスは碧眼を向ける。
「新生魔王軍の大幹部であるあなたが直々なんて、珍しいですね」
「それは『浄化』を発動するためのトリガーだ、その結晶なしに『浄化』はありえん。約束だ――――渡してもらおう」
「もちろん良いですよ、ただ油断が過ぎると思います」
リーリスが投げたナイフは柱を砕き、奥の壁へ突き刺さった。
音を立てて崩れた瓦礫に、誰かの放棄したえんぴつが紛れている。
このえんぴつの持ち主は、とうにこの部屋から消え去っていた。
「つけられていたようですね、それも相当な練度の者に......気が付きませんでした」
「王国軍の偵察部隊か、これで我々の居場所はバレたということか。連中えらく周到に待ち構えていたらしい」
「王国軍――――5年前こそ役立たずでしたが、もうそんな罵倒を口にできるほど弱くはないようですね」
みるみる近づいてくる銃声は、こちらの居場所を完璧に掴んだ証左だろう。
もう数分もせず、完全武装の敵が突入してくるかもしれない。
「敵の武装はサブマシンガン、スナイパーライフル、ハンドガン。厄介ですね」
「奴らはこの5年で驚異的な軍拡を行っている、特にかつての勇者ジーク・ラインメタルが軍に入ったという噂は、全く聞き捨てならんのだよ」
うつむくリーリスは、ルナクリスタルを握り潰さんばかりに力を込めた。
それは、"勇者"という単語を彼女が忌み嫌っていた他にない。
「新生魔王軍がここに復活したと宣言するためにも、作戦成功は絶対条件だ。トビラの前には大量のスケルトンナイトを配備してある、連中も簡単には突破できん」
「そうだと良いですね」
「なにっ?」
フードをかぶり直すリーリス。
スケルトンナイトは、その数とレベルから速攻での突破は実質不可能。
彼の目論見では、ここで相手を消耗させることも十分可能であった。
もっとも、本来はこの時点でバレていないはずの作戦であったのだが......。
――――バゴォンッ――――!!!!
保管庫のトビラが吹っ飛ぶ。
敵は予想以上だった、足止めのスケルトンナイトはどうやら粉砕された様で、進撃速度があまりにも速すぎてまだルナクリスタルも受け取っていない。
煙を破って、銃で武装した軍人が続々と保管庫内へ突入。
その銃口をリーリスたちへ向けた。
「ようこそアルト・ストラトス王国へ、お迎えに上がったよ――――新生魔王軍のネズミ共。ルナクリスタルは返してもらおう」
影の顔が歪んだ。
厄介だと思っていた相手が、究極にうっとうしい存在だったのだから無理はない。
突入開始から15分、レーヴァテイン大隊はついにこのテロ首謀者へ死を突き付けた。
こういう突入部隊っていつも噛ませ犬になることが多いイメージです(世間での軍隊の扱いに泣く)