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第209話 雪色の王都

 

 今日の王都は雪が降り注いでおり、普段なら見える暖色の石レンガも真っ白であった。


「セリカがあそこまで親想いだとは思いませんでしたね、親御さんのお気持ちもわかりますが......」

「まぁどちらも正常な思考さ、戦争なんて本来子供にやらしていいものなんかじゃないのだから......。ウォストピアの『祖国奉仕法』なんか国としては最低の政策と言えるしね」


 今のウォストピアは、アルト・ストラトス王国、ミハイル連邦、スイスラスト共和国による実質3国統治だと聞く。

 しかも、なんか王国と連邦によって東西に分断されたらしく新たな火種になるのではと噂されている。


 王都虐殺事件を主導したと言われる軍部の主要亜人は、ウォストクローナ裁判によって全員がA級戦犯として裁かれた。


 そして、王国主導で東ウォストピアは立憲君主制の民主主義国家へ。

 西ウォストピアは連邦主導で共産主義国家へ。


 民族がああして分断されるのも戦争なのだとしたら、なるほど確かに子供には刺激が強すぎる。


「おい、あれって勇者様と蒼玉の魔導士じゃないか!?」


 そんな暗い話題を話していると、どこからかそんな声が聞こえる。


「マジ!? 国の英雄じゃん!!」


 いや気のせいではない。

 周囲の市民たちがゾロゾロと俺と少佐の方へ向く。


「しょ、少佐......これって......」

「あぁ、どうやら我々は大事なことが頭から抜け落ちていたらしい」


 そう、俺と少佐は今や有名人。

 オオミナトにおつかいを頼んだのも、こういった注目を避けるためだったのだ。

 やっちまった......、セリカのことで頭がいっぱいになって完全に失念していた。


「勇者様ー!! 蒼玉の魔導士様――――ッ!!!」

「握手してくださいー!!」


 俺と少佐は全力で突っ走った。

 だが人々の共鳴というのは恐ろしい。

 こちらの逃げた先へ次々と伝播し、黄色い歓声が四方八方から飛んでくるのだ。


「まいったな......、この群衆を引き連れてセリカくんの家へは行けんぞ......」


 後ろから追いかけてくる群衆を見た少佐が言う。

 これが敵なら蹴散らせるのだが、相手は国民。

 力の行使は不可能だった。


 追いかけられながらT字路に差し掛かった時、曲がり角から車が飛び出してきた。


「しょ、少佐殿に......エルドくん!?」


 それは軍用の乗用車で、運転席にはレーヴァテイン副官のヘッケラー大尉が乗っていたのだ。


「いいところへ来てくれた大尉!! エルドくん! こっちだ!」


 状況を察したのだろう、軍の車両に乗ったヘッケラー大尉が、近くに停まってそのドアを開けた。


「良いカバーだ大尉! 乗り込め!!」


 すかさず車へ飛び込むと、大尉は車のタイヤを急回転させて発進。

 群衆を一気に突き放した。


「ハッハッハ! ナイスタイミングだ大尉!」

「ちょっ、運転中は肩叩かないでください少佐! っというか2人共広報本部にいたのではないですか!?」

「ちょっと野暮用でね、セリカ・スチュアート1士の家へ行ってほしいんだ」

「別にいいですが、それが終わったら少佐には参謀本部に来ていただきますよ」


 車が車両用に最近整備された道へ出る。


「ヘッケラー大尉、ラインメタル少佐になにか急ぎの要事でも?」

「あぁ、だからこうして車で広報本部に向かっていた最中だったんだ」

「なんだ大尉、参謀本部にパシらされるとは貴官も大変だな」

「無茶な扱いはもう慣れましたよ......、ところであの噂はもう知っていますか?」


 ラインメタル少佐が座席にもたれる。


「最近缶詰状態だったからね、世間の戦勝ムードくらいしか知らんよ」

「そうですか......、実は最近【トロイメライ】の近海で謎の音が聞こえるそうなんです」


 トロイメライとは、俺がレーヴァテイン大隊として初めて任務を行った地だ。

 海峡を挟んで存在する島であり、水上都市なんて呼ばれている。


「音?」

「はい、なんでしょうね......付近を航行していた漁船が皆、"世界の終焉を告げるラッパ"のような音が聞こえたと言っていて......」

「大げさな話だ、それで?」

「はい、それを受けて今海軍が駆逐艦と巡洋艦をトロイメライ近海に派遣しているようです」


 なるほど、よくわからない事象ということもあって参謀本部は少佐の知恵も借りたいわけだな。

 ならばなお、セリカの親の説得は急がねばなるまい。


アポカリプティック・サウンド......

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