表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

207/380

第207話 ポーカーフェイス

 

「辞表って......どういうことですかセリカさん!?」


 オオミナトの問いに、うつむいていたセリカがゆっくり顔を上げた。


「もう......嫌なんです」

「嫌......?」

「戦うのが、怪我をするのがもう嫌なんです!」


 机を叩くセリカ。

 戦うのが嫌......?

 あれだけ最前線で、怪我など本望と言わんばかりに突っ込んでいたアイツが?


 にわかには信じられない言動。

 ウォーモンガーにあるまじき言葉だ。


「セリカくん、1つだけ聞こう。――――――その辞めたいという意志は......君の本心か?」


 少佐の顔はこれまで見た中で一番真剣だった。


「......はい! もう怪我をするのはこりごりです! 痛い思いはもうたくさんなんです! 死にたくないんです!」

「そうか、わかった――――」


 瞬間、少佐は席から消えていた。


「なっ!?」


 そして、セリカが奥の壁に首から押し付けられるのが同時だった。


「ガハッ!?」

「嘘も大概にしたまえセリカ・スチュアート1士、君程度の年頃の子供が......本気で俺を騙せると思ってたのか? ポーカーフェイスに自信ありと踏んだようだがとんだ勘違いだ」


 セリカの細い首を腕でさらに壁へ押し付ける。


「ちょっ、少佐! それじゃセリカさんが......!」


 止めようとしたオオミナトを、俺が静止する。


「エルドさん!?」

「手を出すなオオミナト、ここは......少佐に任せろ」


 歯を食いしばるが、賢い彼女はすぐに身を引く。

 その間も、セリカは叫んでいた。


「少佐に貰った恩はもう十分返しました! わたしはこれ以上......この大隊にいたくないんです! 王国軍なんて大嫌いなんです!!!」

「だったら行動で示してみるがいい、やってみろセリカ・スチュアート1士」


 首から腕を離す少佐。

 咳き込むセリカの前へ、少佐はゴトリと弾の入っていない拳銃を落とした。


「踏んでみたまえ」

「ッ......!?」


 それは前に、セリカが「新型だー!」とはしゃいでいた物。

 彼女は恐る恐る半長靴でそれを踏んだ。


「次はこれだ」


 部屋に立て掛けてあったアサルトライフルを、重ねるように放り投げる。


「踏んでみろ」

「ッ......!!」


 一瞬歯を食いしばったセリカは、思い切り銃を蹴った。

 既に彼女の息は荒いが、お構いなしにラインメタル少佐は机の引き出しから1枚の写真を持ってきた。


 床に落とされたそれを見て、セリカが後ずさる。

 のぞきこんだ俺の額から汗がにじみ出た。


 それは、レンジャー徽章をセリカが取った当日と思われる写真。

 徽章を手に泥だらけながらも晴れやかな笑顔のセリカと、ニッコリと微笑むラインメタル少佐との記念写真だったのだ。


「嫌いになったんだろ? 踏んでみたまえよ」

「グ......ッ!」


 さらに後ずさり壁にぶつかるセリカ。

 これはおそらく少佐がセリカをレーヴァテイン大隊に迎えた日の写真、こんなの......。


「こんなの......」


 膝から崩れ落ちたセリカは、その瞳からボロボロと涙をこぼした。


「踏めるわけないじゃないですかぁ〜ッ!!」


 初めて彼女が年相応に泣きじゃくる姿を見せた。

 写真を拾った少佐は、大泣きするセリカへ近づき――――目線が一緒になるようしゃがむ。


「嫌いになった......なんて、誰も得しない嘘はつかないでくれたまえ。僕も悪かったセリカくん......、踏み絵のようなことをさせてしまって」

「えぐっ......! うぅッ......!」


 少佐の読みどおり、セリカの辞職願いは本心ではなかったらしい。

 一連の流れには驚いたが、どうにか場は収集されつつある。


「セリカさん、なんであんな嘘をついたんですか......?」


 かがんだオオミナトが、泣いているセリカの頭を撫でながら聞く。


「ぐす......、親が......」

「親?」


 思わず聞き返す。


「親に......王国軍なんて危険な仕事もう辞めろって......、言われたんです......」


セリカじゃちょっと少佐にはポーカーフェイスで勝てないですね

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ