第206話 プロパガンダと告白
――――王都。
ウォストピアを攻略した俺たちは、王都にある広報本部へと帰還していた。
街は戦勝ムードに包まれており、反亜人キャンペーンが相変わらず展開されている。
当然新聞の内容もまたぞろ似たような感じであるが、やはり"敵勇者討伐"の内容は強烈に主張されていた。
『亜人勇者討滅! 真の勇者は我らが王国にあり!!』
『蒼玉の魔導士エルド・フォルティス爆誕!! 王国軍に2人目の英雄出現か!』
『歴史上2度目の快挙! 我らが国に勇者ラインメタル少佐あり!!』
一通り新聞を読み終わった少佐が顔を上げる。
「全く参謀本部のプロパガンダ広報も困ったもんだ。戦争の常套手段とはいえ、こう大げさに持ち上げられると隠居などできやしないね」
「少佐はまだ慣れてるじゃないですか、俺なんて新聞にここまで大々的に載るの初めてなんですよ......?」
「ハッハッハ! 戦場の兵士から英雄を生み出し、後方で士気向上に繫げるなんてよくあることじゃないか。なにをいまさら」
「いや国中に顔バレしたんですよ、こんなんじゃロクに買い物すらいけません」
言ったところで、リビングの扉が開けられた。
「ただいま戻りました〜、おつかい完了でっす!」
元気な声で、オオミナトが買い物袋を持って入ってくる。
「おかえりオオミナト、街はどうだった?」
「戦勝ムードっていうんですかね? とにかくみんな大騒ぎですよ。エルドさんたちは外出なくて正解でしたね〜」
「やっぱ......そんな感じなの?」
「はい、みんなエルドさんとラインメタル少佐のこと話してます」
やっぱりか〜! やっぱりか〜!!
恨むぞ参謀本部......! 戦争のためなら手段を選ばないウォーモンガーめ!
少佐の魔法で暖かい部屋に入ったオオミナトは、上着を脱ぎながら荷物を置く。
「そういえば、ラインメタル少佐の妹さんが見つかったってホントですか?」
「あぁホントだとも、予想通りというか、あまりに短絡的過ぎて我が妹ながら情けないとすら思うよ」
新聞に目を落とす少佐。
そう、ウォストピアの王城で亜人勇者の力を奪っていった者。
リーリスと名乗った彼女こそがラインメタル少佐の妹らしい。
つまり、何らかの事情で敵側にいたのだ。
「ご家族なんですよね? ......やっぱり戦いにくいですか?」
「君が冗談を言うとは思わなかったねオオミナトくん。勘違いされがちだが、僕は部下には優しいが身内には徹底して厳しい......!」
ゴキゴキと指を鳴らす少佐。
「戦いにくい? 否ッ! むしろ好都合だ、兄不孝のバカな妹を再教育してやる絶好の機会になるのだからなぁ!」
邪悪な笑みを浮かべるラインメタル少佐。
おぉ怖い......、少佐の"部下"で良かった。
コーヒーを口に運んでいると、再びリビングの扉が開く。
外出中だったセリカが戻ってきたのだ。
彼女は勇者との戦闘で大怪我をしていたが、今はもう結構回復している。
強いて言えば、魔導ブースターの3本同時使用で頭痛がひどいというくらいだ。
「おぉセリカ、怪我の具合はどうだ?」
「えっ、えぇ......だいぶ良くなってきました......」
気のせいか、どこかぎこちない。
少しうつむいており、表情だって作り笑いなのがバレバレだ。
こんな時――――人間というのは敏感だ。
なにかが違うということにすぐ気がつく。
だが、決まって踏み込めないのがもどかしいところでもある。
ラインメタル少佐の前まで来たセリカは、汗を流しながら封を机に置いた。
そこには――――――
「なっ!?」
「エッ!!」
俺とオオミナトが思わず声を上げた。
ラインメタル少佐も目を見開く。
セリカの置いた封――――――それには。
『辞表』と......それだけ書かれていた。
「今まで......ありがとうございました、誠に勝手なのはわかっていますが......ここを、辞めさせてください!」