第205話 天界と魔王軍
「"ドラゴン"......ですと!? リーリス様、まさかあのドラゴンを!」
「えぇ、そのドラゴンです。かつてこの大陸にあったと言われる武装中立国家3個を滅ぼした伝説の存在......」
「あんなものを、制御できるのですか!?」
アーク将軍が額に汗を浮かべる。
ドラゴンとは、それほどまでに強く強大なのだ。
ワイバーンの比などではない。
コントロールなどどうやってするのだと疑問が浮かぶ。
「フフッ、どうやって制御するのか? という顔をしていますね」
「し、失礼しました! 我々には全く見当もつかないものでして......」
「ご心配には及びません、主の与えしこの力を使えばドラゴンの制御など容易です」
優しい笑顔を浮かべたリーリスは、亜人勇者の魔力を半分に分けた。
「アーク将軍、これを」
2つになった内の1つがアーク将軍に渡される。
「こっ......これは?」
「それは成熟せし主の力です、アーク将軍はただちに"竜王国城"跡地へその魔力を持っていってください」
「か、かしこまりました......!!」
主の力とは魔王様のことだろうか?
そう疑念を浮かべながらも彼には頭を垂れることしかできない。
「期待していますよアーク将軍、もう失態は......許されないのですから」
「ははっ!!!」
金色の魔力を受け取ったアーク将軍は、ただちに将軍会議室を退室。
ネロスフィアのワイバーン航空基地から、【竜王国跡地】へ向かった。
「さて、軍議中だったところすみませんが......将軍各位は一度退室していただいてよろしいでしょうか? 魔王様との極秘談義がありますので」
「はっ! ただちに!」
促された通り、迅速に部屋を出ていく将軍たち。
魔王ペンデュラムと自分以外誰もいなくなったことを確認したリーリスは――――――
「ぐぅっ!?」
魔王ペンデュラムの、鎧に覆われた足を思い切り蹴った。
思わずペンデュラムは膝をつく。
「失態ですねペンデュラムさん、だからあれほど開戦は情報収集を行ってからと忠告していたのに。なんですかこのザマは!!」
「うぐっ!!」
顔を蹴られたペンデュラムが尻もちをつく。
それを見るリーリスの目は冷め切っていた。
「も、申し訳ございませんリーリス殿......。まさか人間どもがこれほどまで軍備を強化しているとは......」
「言い訳は無用! "天界"はあなたの無能さに失望していますよ。魔王軍が人類を追い詰めなくてどうやって信仰を稼げと!? このデクが!」
「ぐうッ!?」
執拗にペンデュラムに暴力を振るうリーリス。
この現場を部下が見れば、パニックに陥るであろう光景だった。
「いいですかペンデュラムさん、あなたがたが人類を追い詰め、人間から主への信仰を集めなければ全て無意味なのです。世界樹は育たず、ニューゲートも開きません!」
「も、申し訳ございません......」
「役立たずの無能め、主は勇者に恩寵を与えるというカードまで切った。そしてその勇者こそ死にましたが、成熟した魔力を手に入れれました」
亜人勇者の魔力を手のひらに乗せるリーリス。
「今あなた方は『不死の肉体』を持つ兵士を作っていましたね?」
「はっ、はい......。クロムという冒険者を実験台に実用化一歩手前まで来ました」
「ならばこの残り半分の魔力を使いなさい、それで『不死軍団』を連合国軍が【竜王国跡地】を突破するまでに完成させるのです」
「はっ......!」
ひざまずくペンデュラム。
「期待していますよペンデュラムさん、これで勝てなければいよいよこちらも対応を考えますので」
リーリスの瞳が"金色"に染まる。
「かしこまりました......、天使リーリス・"ラインメタル"殿」
金髪を翻し、ペンデュラムを踏みつけるリーリス。
その様子を――――――
「あっ、あわ......あわわ!」
透視魔法で盗み見していたブレスト第7級将軍が、思わず腰を抜かした。
「我々魔王軍は駒に過ぎない......のか、天界とは一体!?」
これ以上の盗み見は危険と判断したブレストは、逃げるように立ち去る。
幸い、リーリス・ラインメタルはブレスト将軍に気がついていなかった。