第203話 戦後処理
その日の王国の朝刊はこうだ。
『連合軍、ウォストピア制圧! 卑劣な亜人たちは人類同盟にひざまずいた!!』
『非道なるウォストピア倒れる! 人類同盟堂々の勝利!!』
『ウォストピア無条件降伏承諾、戦後は分割統治か!?』
『魔王軍完全孤立! 戦争勝利は間近か』
等など、勝利を謳う記事ばかりが出回った。
もちろん、戦勝ムードはここだけではない。
「王国にかんぱーい!」
「かんぱーいッ!!」
王都の酒場では、陽が高いにも関わらず飲んだくれで溢れかえっていた。
ラジオから流れる戦勝報道を肴に、飲酒を楽しんでいたのだ。
「これで後は魔王軍だけだな、前大戦の恨みはキッチリ返してやらんとな」
「そういえば、噂じゃウォストピアをミハイル連邦と分割統治するらしいぞ」
「マジかよ、アカ共の担当区域になった亜人には同情するぜ」
城下町が活性化する中、また別の場所――――今回の勝利を導いた王国軍参謀本部も戦勝ムードになっていた。
「いやー、さすがは参謀本部。見事なお手前です」
王国軍参謀次長を前に、王国各省庁の役員たちが満足そうに笑みを見せる。
「我々はなすべき軍務をこなしたまでです、これも各省庁の献身的なご協力があったからこそと考えております」
そう言う参謀次長も、今日は少しご機嫌である。
「いやはや、以前からウォストピアは厄介な国でした。これで頭痛の種が1つ減るというものです」
「王国の役に立てて光栄極まります、では戦後処理についての話を進めましょう」
いくつか省庁役員から書類が机に置かれる。
「現時点ではこのような案となっております」
――――――
・ウォストピアの完全武装解除。
・国家主権を連合国が完全掌握。
・首都ウォストセントラルは王国、連邦、共和国による三国統治とする。
・首都より東側全域を王国が統治。同様に西側は連邦が統治するものとする。
・80兆スフィアの賠償金請求。
・新憲法の制定。
・ウォストピア領内は連合国軍であれば自由通過できるものとする。
――――――
等など、国家の威信もプライドもズタズタにするような内容が書かれていた。
ウォストピアは無条件降伏を王国海軍の戦艦『ロングゲート』艦上で呑んだのだ。
なにを突き付けようが文句は言えん、だが参謀次長は"ある文章"にだけ怪訝な表情を浮かべた。
「これは私個人の意見になるのですが、この賠償金80兆。どうにか軽減――――または無しにすることはできないでしょうか」
「なにをおっしゃる参謀次長殿、それでは戦争で消費した金額を賄えません!」
声を上げたのはもちろん財務省。
彼らは戦費に四苦八苦しており、今回の賠償金請求でそれらを取り戻そうとしていたようだ。
しかし、参謀次長は目を逸らさない。
「天文学的数値の賠償金は......化け物を生む可能性があります」
「化け物ですと?」
「えぇ、どうせこれからウォストピアは紙幣のハイパーインフレーションに陥り、1杯のコーヒーすら満足に飲めないでしょう。そんな国に多額の賠償金を請求すればどうなるか......」
役員たちが息を呑む。
「ウォストピアはこれから民主主義国家になります、ですが民主主義とは完璧ではありません。国民の大多数が望めば"災厄"が生まれる可能性があるのです」
「災厄......?」
「えぇ、誰も予期できない災厄です。きっとそいつは誰よりも人の心を掴むのが巧く、類まれなカリスマを持ち合わせるでしょう。そんな怪物を生まれさせるわけにはいきません」
「わっ、わかりました。参謀本部はこの戦争で随分と活躍していらっしゃる。賠償金の件は減額の方向で進めさせていただきましょう」
「ありがとうございます」
参謀次長のこの発言により、未来何処で――――――大陸に怪物のような独裁者が生まれる可能性は大きく減った。
だがそれは、もはや誰も知れないことである。
――――778年1月11日。
ウォストピアは分断され、王国領東ウォストピア。
並びに連邦領西ウォストピアが誕生した。