☆第2話 ミリオタ女子とミリオタ魔導士
俺は【魔法学院】を退学した。
別に後悔なんてものはなく、こうして新たな道を進むことに不安もない。
唯一あるとすれば、それは現在進行系で"彼女"を待たせてしまっていることだろう。
スーツに着替え、慌てて自宅の玄関から飛び出すと、茶髪の少女が不機嫌そうに迎えてくれた。
「も〜遅いですエルドさん、暇すぎて雑誌読み終わっちゃいましたよ?」
もう俺には知られているからだろうか、セリカはミリタリー系雑誌を読みふけっていたらしい。
「悪い、『ステータスカード』を探すのに手間取った」
「仮にもエリート魔導士だったのに大丈夫ですか? それがないと受け付けで即行詰むッスからね。行きますよ」
王国軍に入るため、俺は『広報協力本部』という場所へ行くことになっていた。
その手続きに、この銀色に輝く『ステータスカード』というものがいる。
この国では、自身のステータスをこれで表示できるのだ。
かといって特別高価なものではなく、役所で申請すれば誰でも手に入る。
「とは言っても真っ白か……」
残念ながら、今の俺は冒険者でもないのでレベル表記はおろか、ステータス表記すらされていない。
カードは新品同然だった。
「すぐ表示されますよ、『広報協力本部』では紋章を含めた適正審査もしてますので」
「ならいいか。そういえばセリカ、ずっと気になってたんだがその服は?」
「あぁ、エルドさんには言ってませんでしたね。これがわたしの普段の仕事着なんッスよ!」
髪を振ってのドヤ顔が微妙に腹立つ。
彼女の華奢な体を覆うのは、黒色ベースの軍服だった。
下はプリーツスカートにニーハイソックスを組み合わせており、学院時代とは全く違う印象を見せる。
肩にはワッペンが貼られていて、"防衛"を意味する盾がデザインされていた。
美しい……洗練されたデザインだ、カッコイイ。
「さてはこのミリオタ興奮してますね?」
「当たり前だろう? 良い物は良いのだ。俺も早く着たい」
「じゃあ適正試験の合格を祈ることッスよ、と言ってもたぶん大丈夫でしょうが」
昨日もそうだ、彼女は俺の紋章をえらく評価している。
「なあ、魔力量って軍ではそんなに重要なのか?」
「ミリオタのくせにそんなことも知らないんですか? 魔力は王国軍の武器を扱う上で超重要! それこそショットガンに炸裂魔法を付与したりとか––––おっと、これ以上はマズいですね」
口は軽い方らしい。
「現役軍人がペラペラ喋って大丈夫なのか〜?」
「うるさいッスねー! ほら、着きましたよ」
王国軍の広報部というから物々しい雰囲気を想像していたが、どうやら俺は勘違いしていたらしい。
外側はいたって普通の木組みで、中はほとんど喫茶店のようなレイアウトとなっている。
マジで軍の施設なのか……?
「どもー、ルミナス広報官! ピッチピチの志願者連れてきたッスよー」
ドアを開けてすぐ、カウンターに立つ赤髪の女性へセリカが手を振る。
っというか、人を魚みたいに言わないでほしい。
「スチュアート1等騎士が連れて来るとは珍しいですね、今日は榴弾の雨でも降るんですか?」
「わたしは砲兵屋でもヴィザードでもないッスよ失礼な! はいエルドさん、この方が広報官のルミナス1等軍曹です」
1等軍曹.....、現場におけるベテランじゃないか。セリカとは知り合いなのか?
赤髪の女性、ルミナスさんが「どうも」と俺へ微笑んでくる。
「あなたが志願者さん?」
「はっ、はい、陸軍志望のエルド・フォルティスです。元王立魔法学院の魔導士です」
「っとまあ学長にキレられて中退したんで、適正審査してやってください」
人のコンプレックスをばらす悪女にチョップを落とすと、俺はルミナス広報官に言われるがままイスへ掛けた。
横でセリカがギャーギャー喚いているが、とりあえず無視する。
「あの名門魔法学院の魔導士でしたか、では早速適正審査を行いますね。ステータスカードを」
「はい」
空欄ばかりのステータスカードを広報官に渡す。
「たしかに預かりました、では次に紋章をお願いします」
手の甲に刻まれた魔導士の印、尾羽根模様の付いたそれを見せると、早速審査が始まったらしい。
だがしばらくして、ルミナス広報官の様子がおかしくなった。
「へっ!? あなたの紋章……! これどうなってるんですか!?」
「やっぱ……なんかあるんですか?」
魔力量が多いくらいでここまで騒ぐのもおかしいだろ……。
いよいよ5年前に討伐された魔王ペンデュラムの呪いでも掛かっているのかと思ったが、どうやら違ったらしい。
「エルドさん、あなたの魔力は底が見えませんでした。こんなこと初めてです」
「底が見えないとは……つまり?」
広報官に代わって、横でいつの間にかジュースを飲んでいたセリカがイスを持ってくる。
「つまりも何も"ほぼ無限"ってことですよ、おまけに自動MP回復スキルも備わってるので魔力は使い放題。これに"ステータス開放"まで加わると思ったらゾッとするッス」
えっ、なにそれ? 自動MP回復とか学院の検査じゃ出てなかったぞ。
そこら辺の技術は、もしかして軍の方が魔法学院より進んでいるのか?
「いや、でも俺は複雑な高等魔法が使えない。いくら魔力量がほぼ無限にあってもそれじゃぁ––––」
自分の役立たずに等しい紋章を見つめていると、奥のトビラがゆっくり開いた。
「触媒を使えばいいんじゃないかな? 魔法が使えなくとも道具に付与すれば、絶大な威力になる。ましてそれが"最新の武器"なら」
出てきたのは、金髪に端正な顔立ちの男。
メガネの奥から覗く碧眼は俺を見ていた。
直後、座っていたセリカと広報官が直立して敬礼する。
階級を見るが––––いや嘘だろ、こんなことが……。
「お久しぶりです少佐! 学院の潜入任務は成功! ついでに志願者も連れてきました」
セリカが少佐と呼ぶ男の軍服には、数えるのもバカバカしくなるほどに徽章が付けられていたのだ。
レンジャー、冬季戦技、空挺、体力、格闘、射撃––––いったい何者だ!?
「君がエルドくんだね、初めまして。僕は成り行きで少佐をやっているしがない元冒険者だ。"ジーク・ラインメタル"少佐とでも呼んでくれ」
「じっ、ジーク……!」
ジーク・ラインメタル。
たしかその名は、5年前大陸を恐怖に陥れた伝説の魔王、ペンデュラムを屠った"勇者"本人の名だった。
「君の才能は魔法学院では引き出せないものだ。まず、その紋章に合った職業を選択していこうじゃないか」
本話の挿絵は、なんとFAとして頂いたものを使用させてもらっています(感涙)。
ミリオタ軍人のセリカさんめっちゃ可愛いですね( ゜∀゜)o彡°
イラスト作者は「クロナ様」!!