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第198話 勇者を仕留めるために

 

「やったと思うかい? エルドくん......」


 激しい黒煙で視界不良の中、ラインメタル少佐がつぶやく。


「手応えはありましたが、相手は勇者です......。おそらくダメージこそ与えましたがどこかに逃げたかと」


 確かに『爆裂魔法付与エクスプロージョン』付きの弾丸をヤツにブチ当てた。

 だがそれでくたばるようなヤツではないだろう、当たる直前に大量の魔力を感じたことから防御魔法を展開された可能性が高い。


「それでも、もうあの無差別な攻撃ができるほど元気とは思えません」

「仕留めきれなかったが、弱らすことには成功した......と?」

「はい」


 ようやく崩れた橋が視認できるくらいになると、対岸から川を飛び超えて誰かが飛んできた。


「エルドさん! 少佐! 無事ですか!?」


 やってきたのはセリカだった。

 相変わらずその手にはエンピが握られている。


「心配ないセリカくん、部隊の様子は?」

「王国軍・連邦軍・共和国軍は、少佐の要請した戦域特別警報に従って侵攻を中断しています。おかげでそちらの戦いに巻き込まれた友軍はいません」


 さすが少佐だ。

 まさか対勇者戦を想定してそんな根回しまでしていたとは......恐れ入る。

 あんなレーザーをくらったら、いくら機甲師団といえど消滅しかねんからな。


「ありがとうセリカくん、こっちはこっちで振り出しに戻ってしまってね」


 少佐がセリカにここまでの経緯を話す。


「なるほど、エルドさんの化け物じみたエンチャントをくらって生きてるなら、もう正直どうしようもない感あるッスね」

「あぁ、おそらくあの防御魔法を破るにはエンチャントにプラス、さらに大口径の弾丸をぶつけるしかない」

「ですが少佐、ハッキリ言って今の王国では7.92ミリ弾が歩兵運用火器の主力です。対戦車ライフルは旧式のものしかないッスよ?」

「あぁ、確かに"我が国"ではそうだ」


 少佐は通りの脇から出てきた人影を見る。


「遅かったじゃないか、"ミクラ1等陸曹"」

「「ッ!?」」


 振り向けば、そこには全身に特徴的な迷彩服を着た日本人――――――ミクラさんが立っていた。

 ......その手にバカでかい銃を持って。


「ミクラさん!? なぜこんなところに。しかもその銃は......」

「あぁ、そこの少佐に頼まれて別任務中でな。これは一応俺が使う予定"だった"銃だ」


 バイポッドを支えにして巨銃が置かれる。


「《PTRD1941》。ミハイル連邦から王国が輸入したらしい14.5ミリの大口径対戦車ライフルだ、これを使うんだろ?」

「いやースマンねミクラ、ちょっとイレギュラーな事態になったもんで」

「まったく、このデカブツ運ぶの地味にしんどいんですからね。相変わらず人使いが荒い」

「ハッハッハッハッ! そう言うな、君のおかげで光明が差したんだ」


 少佐は俺とセリカの方を向く。


「さて本題に移ろう、作戦としては敵勇者を誘い出して、この対戦車ライフルに僕とエルドくんがありったけの魔力を込めて撃ち抜く。単純明快だろう?」

「俺と少佐で!? しかし、それでは誰が勇者を引きつけるのですか!?」


 俺の問いに、少佐は少し真剣な表情になった。


「セリカ・スチュアート1士......、君に時間稼ぎを頼みたい」

「わっ、わたしッスか!?」

「ヤツの障壁をぶち破るには、僕とエルドくん両方が本気で魔力を込める必要がある。それまで戦える人材は君しかいない」


 敵の勇者は化け物だ。

 いくらさっきの攻撃で弱ったといっても、俺と少佐が本気を出して仕留めきれなかったヤツだ。

 セリカで勝てる相手ではない。


「5分......」


 セリカがつぶやいた。


「5分くらいなら可能と考えます......! 少佐、わたしはあなたに拾われた日から貴方の命に絶対です! 必ず敵勇者を足止めしてみせます!」

「すまないセリカくん......。時間がない、さっそく勇者をおびき寄せてほしい」


 ◆


 ――――ウォストセントラル中央区 亜人王城。


 王を含めた重鎮がみんな地下に逃げたため、このだだ広い玉座の間はがらんどうだった。


 静まり返ったこの場所で、セリカはマナクリスタルを取り出し――――


 ――――バキャンッ――――!!!


 思い切り砕いた。

 溢れ出たのは勇者ジーク・ラインメタル少佐の魔力だった。

 束の間の沈黙で、セリカはつい1時間前の会話を思い出す。


『さすがの亜人勇者も、王城に僕の魔力が現れれば必ず姿を見せるだろう。君にはその玉座の間で時間稼ぎを頼みたい』

『少佐の魔力?』

『あぁ、僕の魔力をこのマナクリスタルに詰めておいた。玉座の間に着いたらこれを砕いてくれ。その間に僕とエルドくんは狙撃ポジションで作業を開始する』

『わかりました、......なるべく早く頼みますよ!』

『もちろんだ』


 床を突き破り、1体の亜人が玉座の間に侵入する。


「王国の勇者......じゃない?」


 驚いた様子の勇者サーニャへ、セリカはエンピを構えた。


「わたしは貴方の国を滅ぼしにきました。勇者であるあなたは我々にとって邪魔極まりません、そのために呼び寄せたんです!」

「勇者の魔力は囮で、つまりあんたがわたしを倒すってこと?」

「少佐たちはもう戦線を離脱しました、わたしが殿です!」


 対峙する勇者という圧倒的な存在に、セリカは全身から汗を出していた。

 だが、ここでやらねば――――――


「ッ!!!」


 ――――誰がやる!

 セリカはポケットから取り出した『魔力ブースター』の注射針を3本腕に突き刺す。


「魔力が一気に上がったわね......、変な魔導具」


 副作用なんて関係ない。

 今ここで、あの日の少佐の恩を返す!

 この亜人勇者を、命に代えてもここに釘付けにしてやる!! 


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