第197話 これは仕事だ、それが悲劇のヒロインだとしても俺はヤツを殺す
――――ダダダダダダダダンッ――――!!!!
俺を探していたのだろう勇者へ、屋根上からアサルトライフルをぶちかます。
「そこか!!」
当然防御魔法で防がれるが、ここで倒せるなど毛頭思っていない。
俺は弾幕を張りながら北の方へと向かった。
「やぁエルドくん、なんだか目つきが変わったじゃないか。ようやく自分の仕事がなんであるかわかったようだね」
炎槍を周囲に展開した少佐と合流。
再び弾幕を展開しながら高速機動、レーザーを避け続ける。
俺は頭の中で今回の破壊目標だった建造物を思い浮かべた。
「少佐!『ウォストブリッジ』はまだ健在ですか!?」
「あの勇者のせいで重砲が進めてないからね、ご立派に健在だよ」
炎槍を7本後方に飛ばす少佐。
相変わらず敵勇者の動きは疲れを全く見せない。
持久戦は不利だ、体力が尽きる前に決着をつけるべきだろう。
「俺に1つ案があります、少佐!」
「ほぅ、君からとは珍しいじゃないか。聞かせてくれ」
それは単純明快、状況が状況なので俺はこれ以上ないくらい簡潔に手早く説明した。
案を聞いた少佐は、拳銃を撃ちながら「ハッハッハッ!」と笑う。
「いいじゃないかエルドくん! 実に理にかなった合理的で単純明快、だが有効な方法だ! それでいこう!」
俺と少佐は必死になって北上、レーザーの雨をかいくぐった先に"それ"は見えた。
大きな川を跨ぐように掛けられた石造りの大橋。
「見えた!『ウォストブリッジ』!!」
「よしエルドくん! ここからは運試しだ! 僕が橋の上で相手をする――――その間に準備したまえ!」
少佐が先行して橋の上へ着地。
続いて亜人の勇者が動きを止めたラインメタル少佐に食いつく。
橋の上で2人の勇者が対峙した。
「とうとう諦めたのかしら? 罪深き人間の勇者......」
「諦める? ハッハッハッハッ!! 冗談はあのイカれた殺戮者への信仰だけにしときたまえ。僕はヤツにもお前にも頭を垂れない」
「そう、ならいいわ。勇者は2人もいらない――――今ここで主の身元へ導いてあげる!」
「虫酸が走る言葉だ! お前の全力を見せてみろ新参者!!」
亜人勇者とラインメタル少佐、双方の瞳が一気に金色へ染まった。
「遥か道の果て......遠く深く高き場所より主は降りられん、罪深き者へ裁きの光を浴びせよ――――『アルファ・ブラスター』!!!」
極太のレーザーが一直線に少佐へ向かう。
「できればこんな力使いたくなかったが......」
炎槍を消滅させた少佐はさらに瞳の輝きを強めた。
そして、心底嫌そうな顔で詠唱した。
「主よ、我が愚かなる身に祝福の光を与えたまえ。我、神に祈らん――――――セイクリッド」
レーザーへ向かって飛び出し、少佐は金色の魔力を纏った右手を突き出した。
「オリンピア!!!」
衝撃波が橋を揺らした。
あの化け物とも言えるレーザーを、なんと少佐は片手で止めていたのだ。
あんな詠唱が必要な技を少佐が使うのは、俺の知るかぎり初めてだ。
「お前も......その技を!?」
「君が砲弾に使ったように、同じ勇者である僕が使えない道理は――――――」
亜人勇者が額に汗を浮かべた。
「ないッ!!!」
レーザーを真下に逸らす少佐。
その威力は凄まじいもので、『ウォストブリッジ』は一気に崩壊を始め、支柱は全て粉砕。
2人の勇者を中心に橋は轟音を立てて落ち始めた。
「今だッ!! エルドくん!!」
最後の足場を使って大きく対岸へジャンプする少佐。
橋と共に落下し、空中で身動きが取れなくなっている亜人勇者へ、俺は飛び上がり上空から照準を合わせた。
並の攻撃ではヤツにダメージは与えられない。
浴びせるは炸裂魔法のもっと上――――――!
魔力量無限の魔導士の本気を見せてやる。
「しまっ......!!」
亜人勇者が俺に気づくも時既に遅し。
俺は銃口を中心にいくつもの魔法陣を展開した。
「くらえ......『爆裂魔法付与』!!」
放たれる1発の銃弾。
それは亜人勇者に命中すると、重砲兵軍団の効力射顔負けと言っていい大爆発を引き起こした。
防御魔法を張って衝撃波と破片をガード。
俺はそのまま川を飛び越えてラインメタル少佐の傍へ落着した。
あまりの爆発の規模に、周囲は黒煙で覆われていた。