第196話 VS勇者サーニャ・ジルコニア
「僕とエルドくんのペアでやるぞ! ついてこい!」
屋根上を少佐と駆ける。
「エルドくん! 今のレベルは?」
「85です! 魔法学院制圧戦からここまででだいぶ上がりました」
「それでもギリギリか......、おそらく勇者のレベルは少なく見積もって"200"以上にまで跳ね上がっている! 勇者に物量は無意味、もはや連邦軍ごときでは対処できん!」
大通りを飛び越え、金眼の亜人勇者を捉える。
「はあぁぁぁアァッ!!!」
真横から凄まじい魔力が吹き付ける。
ラインメタル少佐が"勇者モード"を発動したのだ。
そのブースト比率は、最高幹部デスウイングやアルミナ戦を40%とするなら、正真正銘100%だった。
「やるぞ! あのレーザーに捕まるなよ!!」
「了解!!」
俺はアサルトライフルに炸裂を付与して乱射。
だがそれは掠りもせず、敵勇者はとんでもない速度で逆に俺たちの真上についた。
「くそッ!!」
「神よ、神罰の光を悪しき残虐者に浴びせたまえ――――――『アルファ・ブラスター』!!!」
直上から撃ち落とされたレーザーを、俺と少佐は超高速で屋根上を機動することによってかわす。
あまりにもふざけた火力は、石造りの家を触れた瞬間に溶断していた。
「走れッ! とにかくかわしながら撃てッ!」
勇者は光属性魔法を無茶苦茶な魔力で放ち、レーザーを光の剣のように薙ぎ払ってくる。
民家は次々えぐられ、味方であるはずのウォストピア軍までが巻き添えを食っていた。
「逃げるのか勇者パーティー!! 大人しく死ねッ!!!」
無差別過ぎる範囲攻撃をかわすため、少佐はもちろん俺も身体能力強化を過去最大出力で発動する。
「誰が大人しく死ぬかッ!! 無茶苦茶な攻撃しやがって!!」
壁を突っ走りながら再びフルオートで発射。
今度は誘導まで付けているのにまるで命中しない。
これが勇者、だがなぜだ! なぜ勇者が魔王でなく俺たちの前に立ち塞がる!
「このままでは埒が明かん! やるぞエルドくん!!」
同じく高速機動しながら炎槍を弾幕のように展開していた少佐が叫ぶ。
「チッ! クソッタレがッ!!」
見晴らしのいい屋根の上に来る。
少佐はありったけの魔力で巨大な魔法陣を作り出した。
「エルドくん!」
「了解!!」
魔法陣に手をかざす。
「炸裂・誘導・貫通魔法――――付与!!!」
魔法に魔法の重ねがけ。
レベル80を超えてできるようになった複数属性同時エンチャントをここにきて遠慮なく注ぎ込む。
もっとも、こんなデタラメなエンチャントは少佐の魔法にしかできないんだが。
「喰らえ、悪しき神の狂信者よ......イグニス――――」
亜人勇者が突っ込んでくる。
照準はド真ん中!
「フルパワーランス!!!」
先ほどのレーザー顔負けと言える、極太の炎槍が亜音速で勇者へ飛翔。
要塞すら消し飛ばす渾身の魔法が勇者へ向かう。
だが......。
「だああああぁぁぁぁぁぁアァッ!!!!」
「なにッ!?」
勇者は正面から炎槍を粉砕、俺たちに肉薄した。
「しまった!!」
レーザーで俺と少佐は分断されてしまう。
再び高速機動に移った俺へ、勇者は食らいついてきた。
「こっのおおぉぉぉオォッ!!!」
よりによってこっちに来んのかよ!!
マガジンを交換して速射。
やはりというか勇者は弾幕の中、右手に光の剣を作って俺へ斬りかかった。
「ぐッ!!!」
間一髪、防御魔法を掛けた銃でもって剣を受け止める。
「死ねッ!! 祖国の敵ッ!! お兄ちゃんの仇め!!!」
「こっちは仕事でやってるんだッ!! そもそもお前の兄なんざ知らん!!!」
「うるさいうるさいうるさい!!! 神の敵! 殲滅すべき悪の権化めッ!!! お前らさえ来なければ皆死なずに済んだんだ!!」
「先に虐殺を働いたのはウォストピアだろうが! 勝手な責任転嫁はよしてもらいたいッ!!」
「黙れ黙れ黙れッ!! お前らなんか全員――――――」
「っ!!!」
真後ろに建造物が映る。
「死んでしまえぇッ!!!」
俺は思い切り建物に突っ込んだ。
ギリギリ全身に張った防御魔法が間に合っていなければ、大変痛い思いをしただろう。
反対側に突き抜けた俺は、すぐさま物陰に隠れる。
「ッ......! はぁ、はぁ......! あんな理不尽なヤツが勇者だと......!? 鏡を見ながら喋ってほしいもんだ。先に虐殺してきたのはウォストピ――――――」
そこまで言って、俺は口を押さえた
「そうか......、確かに"ウォストピア"は虐殺を働いた。だが彼女個人は全く関与していない。あの勇者からして見れば俺たちこそが家族を奪った侵略者......」
あぁ......なんだ、そういうことか。
「勇者の条件なんざ不明だが、確かに彼女からしてみれば俺たちこそが"魔王"なんだろうな」
そう、この世は理不尽でできている。
いちいち感情に揺り動かされていては仕事などできない。
「俺は王国軍人だ......、与えられた命令に従う戦闘マシー
ン。国家に服従する戦闘員――――――」
彼女も戦争の被害者なのだ。
しかし、それで同情していてはこの仕事など務まらない。
綺麗事だけじゃなにも救うことはできないのだ。
「感情は不用、たとえそれが悲劇のヒロイン――――正当な勇者だとしても......」
俺は――――――
「殺す」
コッキングレバーの金属音が響いた。