第195話 神罰の代行者
「なんだ! 今の爆発は!?」
首都中央の王城を目指していた俺たちは、突如西方に現れたキノコ雲に目を見開いていた。
「衝撃波、来ます!!」
屋根上の隊員が叫ぶ。
波のように迫ってきた衝撃波が、街中を薙いだ。
俺とセリカは戦車の後ろに逃れることでうまくかわした。
「ちょっ、なんなんスか今の!? まさか赤軍の新兵器ですか?」
「かもしれん、だがそれにしたってふざけた威力だな......」
戦車の横に出る。
見上げればその黒煙は王城より遥かに大きかった。
セリカの言うとおり新型爆弾か? だがそれにしたってあんな範囲攻撃をしたら自軍にも被害がでそうだ。
ふと見れば、なにか空に"点"のようなものが見えた。
「エルドさん、なに見てるんッスか?」
「いや、なんか飛んできてる」
グングンと大きくなったそれは、やがて自分たち目掛けて落下しているなにかだと気づく。
「ヤベッ! 全員逃げろ! バカでかい破片が吹っ飛んでくるぞ!」
「いや、今言われても間に合わなくな――――」
――――ドガシャアッ――――!!!
飛んできたなにかは民家の壁に直撃。
大量の瓦礫と煙を周囲にバラ撒いた。
驚いた戦車が慌てたように砲塔を旋回させている。
「不用意に近づくなよ、安全を確認するんだ」
ヘッケラー大尉が静止を促す。
やがて見えてきたそれに、セリカが顔を青ざめた。
「これ......、ミハイル連邦の戦車です」
「なんだと!?」
何人かで確認作業をするが、ほとんど原型を留めていない鉄の塊は連邦軍の『T−34』であった。
「なんで連邦の戦車がこんなところまで吹っ飛んできたんスかね......」
エンピでツンツンとつつくセリカ。
すると、屋根上で警戒していたレーヴァティン隊員が声を荒らげた。
「なんだありゃ......っ、ッ! 西方より超高速で接近する物体あり! 人型です!」
「亜人か......大尉! 迎え撃ちましょう」
「そうだな、屋根上に飛び移れ! たかが調子に乗った亜人だ、返り討ちにしてやる!」
俺などのアサルトライフルとライフル分隊、機関銃分隊が屋根上に陣取る。
目標は凄まじい速度で屋根を飛び跳ねていた。
「発射用意――――――」
こいつも自爆兵だろうか。
悪く思わないでくれよ......、こっちも仕事なんだ。
「撃てぇッ!!!」
アサルトライフルと機関銃が一斉に火を吹いた。
フルオートで放たれた死のカーテンが、亜人へ向かう。
これで対処完了だと思われた矢先、そいつは軌道を変えもせず......。
「はああああああぁぁぁぁぁぁアァッ!!!!!」
全身に纏った魔甲障壁で全ての弾丸を弾き返したのだ。
「なにっ!?」
7.92ミリ弾で抜けない障壁だと!?
そんなの個人で張れるもんじゃない!
「目標跳躍! 直上です!」
「ッ!!!」
レーヴァティン大隊の真上を取った猫獣人は、"金色の瞳"を輝かせながら空中で魔力を集めた。
直後、戦車を踏み台にしたセリカがその亜人目掛けて跳び上がった。
「させるッ......かァッ!!!」
亜人の腕がエンピで殴られることで照準がズレる。
瞬間、俺たちの視界を光が覆い尽くした。
――――キュイイイイィィィィィィィンッ――――!!
それはまるで、巨大な剣を振り下ろしたかのようだった。
大隊を掠めた極太の"レーザー"は、市街地をぶった斬って遠くに見える湾内に巨大な水柱を無数に立てた。
「光属性魔法......!? とんでもない魔力量です!!」
通信機から一斉に通信が鳴り響く。
「こちら第65戦車大隊! 魔法と思われる攻撃で損害多数! 被害状況としては大破6、中破4!!」
「前進していた1個歩兵中隊が未知の攻撃により全滅! 後退します」
「こちら第29歩兵連隊! 湾内で起きた大爆発により高波発生! 待避します!」
......ッ!
もし、今の攻撃をセリカが逸らしていなければ、被害は今の比ではなかっただろう。
これでハッキリした、さっき連邦戦車をここまで吹っ飛ばしたあの爆発は。
「目標! 塔の上に着地! 再び魔法攻撃の兆候あり!!」
あのたった1体の亜人の仕業だ。
敵がさらに魔力を高める。
なるほど、ヤツの狙いは最前線の部隊か......!
どうする、今度はもうさっきみたいに防げないぞ。
再びまばゆい光が瞬いた時、俺たちの目の前で黒い暴風が吹き荒れた。
魔法を撃とうとしていた亜人を殴り飛ばしたのは、見慣れた我らが大隊指揮官殿の姿。
「ラインメタル少佐!?」
殴り飛ばされた亜人は勢いよく建物へ突っ込む。
「総員! 進軍を中止し現戦線での防衛戦闘に努めよ! これは大隊長命令である!」
瓦礫から飛び出した亜人が、再び獰猛な目つきでこちらを睨んだ。
「ヘッケラー大尉! 戦域特別警報の発令を司令部に要請しろ! 全軍に一時侵攻を中断させる!」
「戦域特別警報!? まさかあの亜人は......!」
「あぁそうだ! 戦時即応プランBに移行! 私とエルドくんのペアでやる! 後の者は現持ち場で待機!」
少佐の瞳が金色に染まった。
「"対勇者戦闘"――――用意!! 敵は勇者である! 繰り返す! 敵は勇者である! エルドくん! 死ぬ気で仕事をするぞ!!!」