表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

193/380

第193話 守るべきもののために

 

「ひどい......、こんなのって」


 混乱しきった大通りで、サーニャ・ジルコニアは爆発と銃声にネコ耳を震わせていた。

 つい先日まで何事もなかった日常は、連合国軍の侵攻により煙のように消え去った。


 街の東西は既に瓦礫の山。

 それでなくても首都の半分以上が砲撃に晒され、大規模な火災があちこちで発生している。

 黒煙と曇天で、街は火に照らされる地獄と変わり果てていた。


「徴兵対象でない子供は中央へ! 志願するものはとにかく敵軍を食い止めろー!!」


 軍の戦士が避難誘導を行いながら叫んでいる。

 サーニャは『祖国奉仕法』の対象外であるが、その手には一族に伝わる剣が握られていた。


 自分も戦いたい、戦わなくちゃ......!

 その想いを胸に駆け出そうとした時、目の前の角から見慣れた亜人がとびだしてきた。


「ッ......! パン屋のおばさん!?」


 ここが戦場になる前、サーニャがよく通っていたパン屋の店主だった。


「サーニャちゃん!? どうしたの剣なんて持って! あんたは祖国奉仕法の対象外でしょ!?」

「いえ、わたしも戦います! 兄だってウォストブレイドで戦ってたんです、ここで逃げたら一族の恥です」

「でもあんた......、まだ14歳じゃないか!」

「大丈夫です、おばさんこそ早く! もうミハイル連邦軍がすぐそこまで来てます!」


 サーニャがパン屋のおばさんと問答していると、誰かが叫んだ!


「おい! 皆逃げろ! 王国軍のワイバーンだ!!」

「ガアアアアッッ!!」


 直後、避難誘導をしていた戦士が火球で吹き飛ばされた。


「空襲だーッ!!」

「早く逃げろ! 火炎放射で焼き払われ......ぎゃあああぁぁぁッ!?」


 空から降りてきた王国軍ワイバーンは、屋根上から避難民へ向け火炎放射。

 大通りが業火で覆われ、数十人の断末魔が響き渡った。


「いっ、いやああ!!」


 無事だったパン屋のおばさんの声を聞いたワイバーンが、その首をひねる。

 サーニャは剣を抜いた。


 守らなきゃ......!

 戦士は今の攻撃で全滅した、わたしがやらなきゃ誰がやる!!


「ゴアアッ!!」


 火炎放射がおばさんに向けられるが、それは直前で四散した。


「これ以上好きにはさせない......!!」


 防御魔法を展開したサーニャが防いだのだ。


「はっ!!」


 亜人特有の高い身体能力を駆使し、一瞬で屋根上まで詰めるとサーニャは剣を持つ手に力を加えた。


「ガアッ!!!」


 しっぽが真上から叩きつけられるが、素早い身のこなしで回避。

 大きく飛び上がった。


「だあああああぁぁぁアァッ!!!」


 一刀両断。

 サーニャは伸び切っていたワイバーンの尻尾を切断した。


「グギャアッ!!??」


 驚いたワイバーンはすぐさま飛翔、なんと撃退に成功してしまった。


「や......った......!」


 初めての戦闘でワイバーンに勝利したサーニャは、守るべき人を守れたことに高揚感を覚える。

 自分はもう立派な戦士だ、これなら国を守るために戦える!!


「おばさん! まだ中央なら安全だと思うから急いで東へ! でも行き過ぎると王国軍と会っちゃうから気をつけて!」

「あっ......あぁ、ありがとうサーニャちゃん、戦争が終わったら美味しいパンを作ってあげるからね!」

「はい! 楽しみにしています!」


 パン屋のおばさんを見送り背中を向けるサーニャ。

 その直後だった――――――


 ――――ドオオォォンンッ――――!!!!


「えっ............?」


 背後から爆風が襲う。

 転がり込んだサーニャがすぐ振り向くと、大通りにクレーターが空いていたのだ。


「まさ......か......」


 彼女が少し目を横に向けると、そこにはさっき逃したパン屋のおばさんの"死体"が転がっていた。


「砲撃弾着点修正! 小隊前進せよ!!」

「ッ!!」


 涙を目尻に浮かべていると、聞いたことのない言葉が西から聞こえてきた。


「まさか......連邦軍!?」


 王国軍のワイバーンに気を取られ過ぎて完全に忘れていた。

 もうここまで来たということは、正面の『民族防衛隊』は全滅したのだろう。


 逃げようと立ち上がった時、進行方向に巨大な鉄の象が現れたのだ。


「そんなっ!?」


 北の通りから前方に回り込んできたのは、ミハイル連邦軍の『T−34』中戦車だった。

 そしてそれには、5人の連邦軍兵士が随伴していたのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ