☆第192話 ジーク・ラインメタルVS亜人王親衛隊
「あいつは王国の勇者だ! 撃てぇッ!!!」
銃火器を手にした亜人70体が、国防省本舎の上に立つラインメタル少佐へ一斉に撃ち放った。
なぜ敵国の勇者がここにいる? だが今はどうでもいいと、親衛隊隊長アルストは思考を流す。
さすがの勇者も銃の前では無力だろう、恨むならこれを渡したミハイル連邦を恨めとアルストは勇者討伐の実績が手に入ることを喜んだ。
......しかし。
「な......にっ!?」
一瞬だった......、刹那と言ってもいい。
銃弾はなにもない空間を穿ち、ラインメタル少佐が隣のサブマシンガン兵の首を掻っ切っていたのだ。
「ガッ!?」
「悪いね、それを借りるよ」
倒れる亜人から《PPshサブマシンガン》を奪い取った少佐は、フルオートで周囲に所構わず乱射した。
「ぐあっ!」
「ガハッ!??」
死の息吹を吸ったかのように、銃弾をくらった亜人はバタバタと崩れ落ちる。
凄まじい連射速度により、ドラムマガジンは一瞬にして空となった。
「なんだ、もう弾切れか......」
「貴様ぁ! よくも同胞を!!」
「よせ! こんな密集状態で撃ったら同士討ちに......!」
アルストの警告を無視した亜人が、ボルトアクションライフルを放つ。
「ぎゃあ!?」
だが、しっかりとスコープに据えたはずの勇者ではなくその後ろにいた亜人へ7.92ミリ弾が直撃した。
「ちくしょう! なんで!?」
「あぁ、知りたいかい?」
「ッ!!!」
真後ろへ振り向いた亜人は、唐突に顔面へ走った衝撃に思考を中断させられる。
弾切れのサブマシンガンでぶん殴られたのだ。
「それは君たちが――――」
のけ反る亜人からライフルを強奪すると、素早くコッキング。
空薬莢が地面に落ちるのと発砲はほぼ同時だった。
「ぐああッ!?」
「この武器を扱うには早すぎたというだけだ」
少佐はマウントされていたスコープを強引に引き剥がすと、自分を囲むように陣形を組んでいる亜人部隊を一瞥した。
「これは剣じゃない、この陣形の中心に入られた時点で――――君らの負けは確定した」
「黙れ! そんな戯言も――――――がっ!?」
瞬時に間合いを詰めた少佐が、腰だめで喋っていた亜人のこめかみを撃ち抜いた。
「そう......! 銃の前ではそんな戯言も無意味だ!」
「こっ、この悪魔め!」
「ハッハッハッ!! 結構! 愚かなマーダーの信徒よりかは数百億倍マシだ」
続いて反対側の亜人へ素早くアイアンサイトで狙いをつけると、またもや1ショット1キルで仕留めた。
恐ろしい速度で排莢を行い、勇者は次々と亜人精鋭部隊を屠っていった。
「構わん! 撃てぇ!! 今はこいつを......! こいつを殺すことだけ考えろォっ!!!」
「やれるもんなら殺ってみたまえ亜人諸君!」
サブマシンガン、ライフル弾が密集地帯で飛び交う。
跳弾や直撃で被弾する亜人が続出する中、ラインメタル少佐は肉眼で捉えられない速度で機動。
本来遠距離戦闘に向いているライフルで、ショットガンが如し殺戮ぶりを披露していた。
「どうした亜人部隊! 銃を持ってしても勇者1人殺せないか!」
「クソが! なんで当たらない!? 化け物めぇ!!!」
死体から少佐は弾薬を抜き取ると、素早く装填。
サブマシンガンを無差別に乱射していた亜人を、やはりたった1発で倒してしまう。
「謳え! 叫べ! 旋律を奏でろ! 祈った者から最優先でヴァルハラへ送ってやる!!」
スナイパーライフルを捨てた少佐は、足元に転がっていたサブマシンガンを拾い、両手に構える。
「カーニバルだッ!!!」
――――ダダダダダダダダダダダダッ――――!!!!
「ぐはっ!」
「があぁっ!?」
「うぐおぉ!??」
両手持ちしたサブマシンガンの猛烈な弾幕により、亜人部隊はその数を急激に減らした。
「あっ、悪魔......! 化け物だ! 助けてくれぇ!!」
何体かの亜人が国防省本舎へ逃げ込む。
態勢を整えるためだろう、そう思った少佐はサブマシンガンを放り捨てた。
「さて、唯一逃げなかったのは君だけか。名前は?」
「......アルスト、親衛隊隊長だ。俺は決して逃げない」
「ほぅ、その心意気やよし。だけど」
勇者の右腕が赤い炎に覆われる。
「部下を守れなかった無能な指揮官といったところかな?」
「貴様っ......! なにを!?」
国防省本舎の直上に作り上げられた魔法陣から、特大サイズの"炎槍"が出現した。
「『イグニス・フルパワーランス』!!」
釘のように突き刺さったそれは、間を置くことなく爆発。
国防省本舎は街中に轟く爆音と共に、瓦礫を四散させながら木っ端微塵に粉砕された。
「ぐっ......、くそぉ......!」
飛んできた破片の直撃したアルストは、なんとか立ち上がろうとする。
「ッ!?」
しかし、目の前に黒い軍服に覆われた足が見えた。
「さて、君くらいの立場の亜人ならさぞ良い情報を知ってるだろう? ......色々教えてくれないかい?」
「俺は亜人王直属の親衛隊隊長だ! 勇者なんぞに屈したりはせん!」
「ハッハッハッハッ! 自慢の部下が鏖殺されてなおくじけぬその意思は素晴らしいな!」
一歩近付く。
「吐きたくないならそれでいい! だが尋問は私の――――――」
ラインメタル少佐はしまっていた拳銃を取り出すと、右手に構えた。
「得意分野だ!」