第191話 首都決戦
連合国軍は遂に首都ウォストセントラルへと侵入した。
「キャーッ!!!」
街の内側から障壁が崩れていく光景を見るのは、彼らにとって相当ショックな景色だった。
だがそれは地獄への序章に過ぎない――――
――――ヒュ―――――――――ッ......!
大通りを無数の榴弾砲が直撃した。
避難中だった家族連れを吹き飛ばし、出店はバラバラに弾ける。
大口径の野砲は家屋に直撃すると、砲弾はキッチンまで貫通――――内部からの爆発で瓦礫へと変貌させた。
この戦略砲撃に続く形で、連合軍は東西より侵入。
戦車、野砲などをもって障害物となりえる民家や建造物を次々に破壊していった。
ウォストピア側は残存した魔王軍第2軍団、および民間人からなる民族防衛隊で応戦。
彼らは女子供を容赦なく捨て駒として使った。
爆発ポーションを持った子亜人が戦車に突っ込むという惨劇があちこちで発生したのだ。
これにより、連合軍はたとえ子供であっても見つけ次第射殺せねばならなくなった......。
「12時方向屋根の上! 子供亜人7体が戦闘形態で突っ込んできます!!」
「そいつらは自爆兵だ! 機銃掃射!!」
――――ダラララララララララッ――――!!!
市街を進んでいた王国軍首都攻略戦闘団は、ウォストセントラル東側の大通りで激しい抵抗にあっていた。
4型戦車がその車載機銃で凄まじい弾幕を展開する。
「ガウアアアアァァッ!!!」
「2体射殺! 後続さらに接近!!」
「弾幕を展開しろ! 取り付かれたら爆発ポーションを放り込まれるぞ!!」
「無理です! 的が小さい! 間に合いません!!」
戦車乗員が叫んだ瞬間、すぐ隣から声が響いた。
「『誘導付与』!!」
青色に輝く銃弾が、素早く回避機動を取る亜人の足を撃ち抜いた。
その正確さには寸分の狂いもなく、目の前で次々と転倒する亜人たちを見た戦車乗員は思わず声を上げた。
「来たぞ! "蒼玉の魔導士"だ!!」
上部機銃手が横を見ればそこにはレーヴァテインの誇る魔導士、エルド・フォルティスの姿があった。
「おー、さすがエルドさん――――お見事ッス! さすがは『蒼玉銀剣章』の受勲者」
瓦礫の山を超えたセリカが、俺の傍まで走ってくる。
「ありがとさん、お前がレンジャー徽章を付けたがらない理由がよくわかるよ」
「だから言ったじゃないですか、そんな凄いの付けてたら前線でブラックな労働させられまくりますよって」
エンピ片手に息をつくセリカ。
「あんたが蒼玉の魔導士か......今のは危なかった、掩護感謝する」
戦車のキューポラから顔を出した戦車長が、俺へ敬礼する。
「いえ、我々レーヴァテイン大隊の任務は前進部隊の掩護、当然の仕事です」
答礼を返すと、さらに後ろからヘッケラー大尉や部隊員がゾロゾロとやってきた。
「よし、さすがだフォルティス2士。掩護が間に合ってよかった」
「ギリギリでしたけどね......、次の目標は? 大尉」
「ラインメタル少佐からはこの戦車を掩護せよとのことだ、どこから状況を観察なさっているのかは知らんがね」
そう、今このレーヴァテイン大隊には1番大事な人がいない。
「そういえば勇者殿の姿が見えませんな......、ラインメタル少佐はどこへ?」
「我々にもわからんのですよ戦車長、"連邦の尻ぬぐいをしてくる"とだけ仰って1人先へ行かれました」
「なんと......、だが蒼玉の魔導士にレーヴァテイン大隊、随伴歩兵としては最上級だ。勇者殿がいなくても安心だ」
結構頼りにされているな......。
まぁ、俺が少しでも少佐の代わりを務められてるわけだしヨシとしよう。
俺たちは戦車に続いて、荒れた首都を前進した。
◆
「彼らは上手くやってくれているようだ、これでこっちの仕事も安心してこなせるというものだろう? ――――ミクラ1等陸曹」
ウォストセントラルの奥深く......、まだ砲撃の届いていないある建物の上にラインメタル少佐は立っていた。
《相変わらず常識はずれですね少佐、大隊指揮官殿が単独行動とは......》
通信機から聞こえてくるミクラの声を聞き、少佐はハッハッハと笑う。
「なーに、優秀な部下たちだ。僕なんぞいなくても防衛線くらい突破できる」
《なるほど、では勇者殿はそろそろ尻ぬぐいタイムですかな?》
「そういうことだ」
下を向いた少佐は、その瞳を金色に染める。
「ちょうどこちらの位置もバレた」
『ウォストピア国防省本舎』の上に立つラインメタル少佐へ、大量の"銃口"が向けられる。
それらライフルやサブマシンガンを持っているのは、れっきとした亜人の精鋭部隊だった。
彼らはたった1人現れた勇者に、焦りの汗を滲ませながら銃を構える。
「愚かなるミハイル連邦がレンドリースした銃器......、やはり切り札として温存していたか。それを持って前線に行かれては――――」
ナイフ1本のみを持った少佐は、ニヤリと笑った。
「――――我々王国が困るんでね」
発砲炎が輝く。
凄まじい弾幕が、ラインメタル少佐目掛けて突っ込んでいった。