第19話 大国パーティーは魔王軍を踏み潰す
「新生魔王軍......どういうことですか少佐、魔王はあなたが5年前に討ち滅ぼしたはずでは?」
あまりに突然のことで、俺の額に汗が滲み出る。
かつてこのアルト・ストラトスという大国を追い詰め、武装中立国家3つを滅ぼした最悪の存在が舞い戻ったというのだから当然だ。
「そのはずだったんだけどねぇ、どうもこのコロシアムに既に入り込んでいるみたいだ。いやはや束の間の平和だったよ」
そう言う割に、少佐の口調はおそろしく軽い。
まるで、もはや魔王軍など意に介すことでもないかのような。
「不安かねエルドくん」
「そりゃ......不安にもなりますよ」
「再び国が危険に晒されるかもと......? 否だエルドくん! ではなぜ"王国軍"が存在していると思う?」
少佐の問いにハッと気付かされた。
そういえば、なぜこの人は勇者から王国軍へと転職したのだろうかと。
「――――魔王襲来まで、平和を謳歌していたこの国の軍は非力でした。結果本来の役割を冒険者や勇者がこなし、魔王を倒して今に至りました」
セリカは階段を数歩登り、少佐を見上げた。
「だから少佐は、当時より税金ドロボウと蔑まれていた軍に入ったんッス。大国アルト・ストラトスに備えを施し、来たるべき危機に備えて勇者パーティーすら上回る戦力を保有させるために」
瞬間、橋の下からゴブリンロードの群れが湧き出て、こちら目掛けて飛び込んでくる。
油断していた俺に鋭い爪が向けられるが、それが届くことは無かった......。
――――ダンダンダンッ――――!!!
少佐の拳銃が火を噴き、俺たちの物とは違うサイレンサーの付いていないけたたましい発砲音が3度響く。
地面に打ち付けられたゴブリンロードには、その頭に1発ずつ穴が空いていた。
拳銃を右手に持ちながら少佐は続ける。
「魔王は必ず復活する、だからこそ僕は"国家"という最強の組織を覚醒させた。連中はいまだに我々が"勇者の剣"で挑んでくると信じているだろう」
大量の魔力が近づいてくる。
敵ではない、人間の魔力だ。
「だが我々はもうそんなに優しくなどない、勇者が剣を持って4人パーティーで挑む? バカみたいな縛りプレイはもう終了だ!! 工業力と経済力に裏打ちされた最強のパーティーが出来上がったのだからな!!」
河川を飛び越えて、俺たちと同じ黒い軍服に身を包んだ同僚――――レーヴァテイン大隊の面々が続々と到着してきた。
集まったのは40名以上、少佐は十分だと口角を吊り上げる。
「この騒乱を防げなかったことは遺憾だが、我々はこの5年で準備を続けてきた。そしてその準備はエルドくん――――君を迎え入れることで完了した」
「俺をですか?」
「あぁ、魔力無限の不器用な魔導士こそ軍で輝く。次代の英雄はここから生まれるのだ!!」
拳銃を振り上げた少佐へ、大隊が一斉に傾注した。
「レーヴァテイン大隊に告ぐ! 敵の狙いはコロシアム地下に保管されている『ルナクリスタル』という大会優勝商品だ! 街での騒ぎは囮に過ぎん! 薬室に弾を込めろ!!」
銃のレバーを引き、全員が戦闘モードに突入。
セリカの目付きも変わっていた。
「さて大隊諸君! 完全武装した40人パーティーでの攻略ミッションを始めよう。やるのは一方的な殲滅! 勇者パーティーのさらに上――――国営パーティーによる魔王軍攻略タイムアタックだ!!!」
コロシアムへ潜入したという敵に対し、国営パーティーことレーヴァテイン大隊が一斉に突入を開始した。