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第188話 第二次王都テロ

 

 連合国軍がウォストピアの首都まで迫った頃、アルト・ストラトス王国の王都でうごめく不穏な影があった。


「よし、準備はできたか兄弟」

「俺たちゃバッチリですよ兄貴」


 ――――アルナ教会王都支部前。

 ここに10人ほどの人間――――――否、人に擬態した亜人が集まっていた。


 亜人族はその外見を人間とほぼ同一にすることが可能であり、王都で目立つことはない。

 今回集まったのは元から王国に住んでいた在アルト・ストラトスの亜人である。


 総力戦で追い詰められつつある彼らは、本国からの指令で起死回生の一手として原点回帰――――"都市部でのテロ"を行おうとしていたのだ。


「窮地にある祖国を救うためにはこれしかない......、ぶっ殺してやるぞ」

「しかし、本当にここでいいのか?」


 亜人の1人が修復中の教会を見上げる。


「へっ、ここのプリーストは自称平和主義者だ。絶対に抵抗しないから大丈夫だよ。前の刺客がやり逃したまずこいつから殺そう」

「へへへ、そりゃいい。平和主義なんてものは幻想だってことを教えてやるぜ」


 勢いよく新造の扉を開ける。


「あのーすみません、プリーストの方はいらっしゃるでしょうかー?」


 先頭の亜人が声を響かせると、奥からトテトテと水色の髪をした少女が走ってきた。


「こんにちは、アルナ教会王都支部長ルシア・ミリタリアスです! 今日はお祈りに?」

「あー、はいそうです。最近忙しく来れてなかったので......」

「わかりました、中へどうぞ」


 案内のため、ルシアは背中を見せる。

 亜人たちは笑った。

 なんて無防備な背中なのだろう、やはりお花畑女にこちらの擬態は見抜けまい。


 ルシアの後ろで、ムクムクと体躯を巨大化させる。

 体毛が生え、鋭い爪がプリーストの少女へ向けられる。

 まず1人目――――――!!


「......そういえば」


 爪を振り下ろした亜人は、突如振り向いたルシアと目が合う。


「わたしは平和主義なんていう妄想、とっくに捨てましたので」


 ――――ダァンッ――――!!!


「がっ......!? なに!!」


 いきなり走った衝撃に目を見開く亜人。

 胸を触ると、血でベッタリと濡れていた。

 7.92ミリ弾によって心臓を撃ち抜かれた亜人は、なにが起きたかわからないままその場で絶命する。


「兄貴!?」

「わたしはもう二度と過ちを繰り返しません、必要な自衛力の整備――――――教会支部長になったわたしがこれを怠るわけありません!!」


 ルシアが杖をカンッと床に打ち付けたのを合図に、長椅子やインテリアの影から続々と黒い軍服を着た男たちが飛び出してきたのだ。


「王国軍!?」

「教会でテロしようとして――――――五体満足で帰れると思わないでください!! 撃ち方始めッ!!」


 王都でのテロを警戒して配置されたレーヴァテイン第3中隊が、アサルトライフル、スナイパーライフルで一斉射を行う。

 吹き荒れる弾幕の嵐が、次々と亜人たちを撃ち抜いた。


「なっ、なんで!? 俺たちの擬態は完璧だったはず! ぎゃあっ!?」

「ちくしょお! 逃げろおっ!!」


 いくらか被弾したもののまだ動けた2体が、教会から飛び出す。


「レーヴァテイン30よりスカウト、逃走した亜人の経路を求む」

「こちらスカウト、逃走中の亜人はウォルマート通りを疾走している」


 偵察部隊からの報告を受けたレーヴァテイン中隊長は、ルシアに近づく。


「亜人2体は逃走中、このまま大通りに逃げられると厄介です」

「わかりました」


 ルシアは受け取った通信機を操ると、待機中の予備戦力へ指示する。


「オオミナトさん、出番ですよ!!」


 閑散としたウォルマート通りを疾走しながら、亜人2体は満身創痍で逃げていた。


「ちくしょう! 計画と違いすぎる! なぜ王国軍の連中が展開してやがる!」

「俺が知るか!! とにかく今は逃げるぞ!」


 その時、突っ走っていた亜人の前に1人の小柄な少女が立っていた。

 王国では珍しい黒色の髪に、紺色の長袖とクオーターパンツ、首には赤いマフラーをかけていた。


「あぁ? なんだあの女は!」

「構うもんか! ぶっ殺して進め!」


 突っ込んでくる亜人。

 それを確認した少女――――オオミナト ミサキはスゥッと冬の冷たい空気を吸った。


「「どけえええぇぇぇぇぇッ!!!!」」


 黒色の瞳を銀色に輝かせ、その両手に風を纏った。


「『ウインド・インパクト』!!!」


 爆発に等しい暴風が亜人2体をふっ飛ばした。

 宙を飛んだ彼らはなんと教会前までぶっ飛び、建物を出た王国軍とルシアの前に落着した。


「こちらオオミナト! 目標2体、ぶっ飛ばしましたよ」


 元気いっぱいに通信機へ発声したオオミナトは、ものすごいドヤ顔を見せた。


《さすがですねオオミナトさん、退院したてとは思えません》

「でしょー、もうすぐエルドさんたちは首都攻略戦だもん」


 オオミナトの瞳が、『風神の衣』が解けたことにより銀色から元の黒色へと戻る。


「わたしだって――――――負けられないから!」


 今回の亜人による王都テロは、事前に索敵スキルを使える魔導士を総動員して亜人の正体を看破。

 精鋭部隊を派遣したことにより未然に防がれた。


 敵後方での陽動すら失敗したウォストピアは、いよいよ首都決戦へと突入することとなる。


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