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第185話 避難船団撃滅

戦争って怖いね

 

 発端は参謀本部での会議だった。


「もし敵が労働資源を洋上に脱出させた場合、我々はどう対処すべきでしょう」


 既に無差別都市爆撃を行っている王国としては、今さら民間人の乗っている船を沈めるのに躊躇などない。

 だがこういう場でのテーマとしては、そこに至るまでにどうすればいいかを考えなくてはならないのだ。


「主砲撃ち方やめっ! 対空砲の発射準備急げ!!」


 都市爆撃の口実としては、軍需工場の破壊を第一に置いて行っている。

 実際他国はこれで納得しているし、王国世論も一部の人権派以外は静かなものだ。


「全高射砲準備よし!」

「機銃掃射用意よし!!」


 だが非武装の船の場合はどうだろう。

 非武装ということは戦闘の意思なしを示し、さらにこれまでの"軍需工場破壊"という名目が使えなくなる。


 そこで参謀本部は考えた。


「目標! 敵特殊工作揚陸船! 各個に撃ち方!」


 亜人は全国民が『戦闘形態』を持っている。

 つまり民間人すらも潜在的敵性勢力とみなせるので、非武装は言い訳にならない。


 もっと言えば、それら敵性勢力を乗せて運ぶということは上陸作戦を意味することになる。

 もし避難船を"特殊工作用の隠蔽に長けた揚陸船"と定義すれば、国際社会にだって言い訳できる。


「発射用意――――!」


 従って。


「発射ッ!!!」


 全ての敵民間船は大義名分の下、撃沈が可能である。


 ――――ドドドドドドドッ――――!!!!


 先頭の軽巡洋艦『フィフティ・ベル』が、25ミリ連装機銃で掃射を開始した。


 続いて『ロング・ゲート』、『ダイヤモンド』、『フォッグ・アイランド』が避難船へ副砲、高射砲、機銃を乱れ撃つ。

 また、対空駆逐艦『セーラー・ムーン』が至近距離まで肉薄して長10センチ砲を発射した。


「甲板ごと薙ぎ払われるぞ! 海へ飛び込めーッ!!」

「誰か! 誰かウチの子を助けてー!!」

「ちくしょうあの大艦隊! 白旗が見えないのか!? 俺たちは非武装の民間人だぞ!」


 ――――ダンダンダンダンダンッ――――!!!!


 大口径の機銃が、甲板にギッチリ詰められていた亜人たちを撃ち殺す。

 容赦ない高射砲の水平射撃が血の霧を生み出し、船体ごと亜人を貫いた。


 数十隻の王国海軍艦隊は白旗を完全に無視。

 逃げ惑う避難船を次々破壊し、さながら事務作業のように木造の船体から浮力を奪った。


 彼らは叫ぶ。

 正義はどこだ、愛と博愛に満ちた英雄はどこにいる!

 これが物語ならなぜ無実の民間人がこのように虐殺され、悪魔同然の敵艦隊が野放しにされているのだと。


 彼らは知らない。

 これは都合のいいおとぎ話なんかではない、亜人たちは総力戦で言う"人的資源"でしかないのだと。

 世界は、神は決して助けてなどくれない。


 もし彼らに攻め口があるのだとすれば、それは国民を戦火に巻き込んだウォストピア政府だろう。


「ぎゃああぁぁ――――――ッ!!!」


 水面に飛び込んだ亜人たちへ、王国海軍は情ではなく機銃掃射を浴びせた。

 海はたちまち紅く染まり、木造船の残骸よりも遥かに多い亜人だった肉塊で覆われた。


「海が......泣いている......」


 巨大木造避難船『シューズ』の上で、プリーストの亜人は祈っていた。

 周りを見渡せば、ほぼ全ての避難船は黒煙を上げながら轟沈している。


 残る無事な避難船はこの船くらいだ。

 この船よりも遥かに大きな軍艦が、『シューズ』を包囲する。


「あぁ......! プリースト様!! どうか我々に救いを......!」

「ッ......!」


 数百人が甲板にひしめき合う。

 荒れ狂う海で、もはや助けなど来ない。

 プリーストはわかっていた、この海にもう味方はいないことを......。


 救国の英雄は現れない。

 いや、むしろ勇者こそがこの凄惨な戦争を作り上げたのだ。


「託しましょう......」

「......?」


 機銃掃射が襲い掛かる。

 3隻の戦艦、4隻の巡洋艦から雨のように銃弾が撃ち込まれる。

 大人も子供も老人も、全てが鉄の嵐に飲み込まれた。


「我らの無念を神に託すのです! いつか現れる救国の英雄に、我らが民族の勇者に......!!!」


 水柱で隠された船体は、二度と浮上しなかった。


 王国海軍第1機動艦隊は、ウォストピア避難船団第1群を殲滅。

 また、先の海域へ逃げていた第2、第3群およそ87隻は数百騎のワイバーンに襲われて壊滅した。


 一連のウォストクローナ沖海戦は、

 ウォストピア側損害:戦列艦17隻轟沈。木造避難船約107隻沈没。

 王国側損害:弾薬の損耗のみ。


 という圧倒的な形で終結した。


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