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第184話 ウォストクローナ沖海戦

 

 空爆を逃れた民間人は、ウォストピア南部から魔都ネロスフィアを目指す避難船に押し込まれた。

 本来なら『祖国奉仕法』に当てはまるこの労働者たちだが、工場や街を破壊されては生産もできないので、一時的に国外待避させることが決まったのだ。


 各港を出港した100隻を超える大船団は、護衛の戦列艦を伴って一路ネロスフィアへ......。

 細心の注意を払い、南方海域から西のネロスフィア沿岸を目指した。


 だが、これらの動向は全て連合国軍に筒抜けであった。


「通信探知、船団の位置は本艦隊より西方にあり。規模は百隻以上と想われます」


 ――――ウォストクローナ沖海上、王国海軍第1機動艦隊。

 旗艦レッド・フォートレスは、最新の傍受装置を用いてウォストピア避難船団の通信をキャッチしていた。


「やはり乗っているのは民間人が主か......?」

「そのようです、護衛に数隻の戦列艦がいるようですが......我が軍の前では障害にすらなりえないかと。一路ネロスフィアへ向かっているようです」

「見つけてしまったな......、こうなった以上海軍司令部からの命令を遵守せねばなるまい」


 王都コローナ海軍基地を抜錨したこの艦隊は、ウォストピア海軍の持つ全ての洋上軍事アセットを破壊するよう命じられていた。


 つまり、見つけてしまったものがなんであれ"洋上戦力"として機能しているなら撃滅するのが任務だったのだ。


「各艦へ打電せよ、進路西方、輪形陣を解除し前進。速力20ノット、赤15」

「了解、進路西方、速力20ノット、赤15!」


 機動艦隊は旗艦であるレッド・フォートレスと護衛の駆逐艦を残して前進。


 戦艦1。

 巡洋戦艦2。

 重巡洋艦4。

 軽巡洋艦4。

 駆逐艦8を避難船団へと向かわせた。


 12時間後――――艦隊の先鋒を務める軽巡洋艦が水平線上に影を捉えた。


「前衛の軽巡洋艦より打電! 我敵影を見ユ! 右舷みぎげん水平線上に敵影複数を確認!」

「巡洋戦艦ダイヤモンドより通信! 敵戦列艦と思しき影発見! 推定速力は10ノット!」


 ウォストピアの避難船団第1群(46隻)を発見。

 戦隊旗艦ロング・ゲートは、朝日にその41センチ砲を輝かせた。


「ロング・ゲートより全艦! 対水上戦闘用意!」


 艦内にサイレンが鳴り渡る。


「戦闘ー! 右砲ー戦!!」

「面舵いっぱい! 第4戦速! 砲打撃戦用意!」


 各軍艦が白波を立てながら運動を行う。

 同じ頃......戦闘態勢に入る第1機動艦隊 第2戦隊の姿を避難船団も確認していた。


「あれって......、人間の船か?」

「デカすぎる......、冗談だろ! まるで鉄の要塞だ!」

「慌てるな! 左舷水上戦闘用意! 護衛の戦列艦は任意に射撃開始せよ! 敵を船団に近づけるな!!」


 ウォストピア海軍の誇る50門級戦列艦が、爆音を響かせながら斉射。

 ショットガンのように四散した砲弾は、しかし水柱を上げるも全く届かない。


 まだまだ有効射程ではないので、これはいわば牽制。

 おそらく敵もやってくるだろうとは思っていた。


「閃光視認! 敵戦艦発砲しました!」

「焦るな、まだ十分距離がある......こんなのはただの威嚇で――――」


 船団司令が諭したのも束の間、左翼付近でひときわ大きな水柱が立ち昇った。


「避難船に至近弾! まさかあの距離で!?」


 亜人たちは動揺を隠せない。

 明らかに射程距離が違う、いや......敵艦隊とウォストピア海軍で数次元の差が開いているのだとこのとき全員が知ることとなった。


 至近弾を受けたのは『避難船コシュモーロ』。

 木造のこれは41センチ砲弾の衝撃に耐え切れず、手痛い浸水被害を出していた。

 また、揺れで数人が海へ落下してしまう。


「敵艦隊続いて発砲!」

「同航戦用意! 遅れをとるな!!」


 戦艦ロング・ゲートが第2射を発砲。

 さらに後続の巡洋戦艦ダイヤモンド、およびフォッグ・アイランドが35.6センチ砲を撃ち放った。


「目標の敵戦列艦を夾叉(きょうさ)!! 続いて撃て!」


 まず、巻き添えを除いて戦列艦が真っ先に攻撃を受けた。


 船団旗艦である『ビルナ』が至近弾によって大破浸水。

 同じく50門級の戦列艦『アルバヤ』が運悪く直撃弾を受け轟沈。

 また肉薄を試みた30門級戦列艦『シーナ』は、快速で接近していた王国海軍駆逐艦『オータム・ムーン』によって撃沈された。


 ウォストピア海軍の護衛戦列艦は、水面に衝撃波を走らせながら次々と爆沈する。


「こちら観測手、敵戦列艦の全滅を確認。残るは非武装船団のみ」


 報告を受けたロング・ゲート艦長は、重々しく息を吐いた。


「艦長.....、本当にやるんですね」

「それが命令ならばやるのが軍人の務めだよ副長、これより先の行いは倫理への冒涜だろう。歴史に残る大罪と言っていい......だがやらねばならん、それが総力戦だ」


 陣形を整えた艦隊は増速。

 打電音を響かせながら、混乱の只中にある船団へ指向した。


「これより、"敵特殊工作揚陸船"を全て掃討する! 全艦......突撃せよ!」


 参謀本部より発案されたこれは、非武装避難船団を合法的に攻撃するためのこじつけとも言える定義づけ。

 敵人的資源を殲滅するための、悪魔のような戦闘命令だった。


夾叉(きょうさ)

目標を弾着の水柱がほぼ囲んだような状態を示し、ここまで持ってくればあとは命中まで時間の問題。


【特殊工作揚陸船】

王国の偉い人が作った凄まじく都合のいい定義。

本作においては独自の意味を持つ。

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