第179話 ミハイル連邦侵攻
赤軍の時間だあああああぁぁぁぁ!!
魔王領、ミハイル連邦国境――――――
開戦当初からこの区域を担当する魔王軍第6軍団は、常に暇を持て余していた。
っというのも、これまでアルト・ストラトス王国軍と東で戦うのみでミハイル連邦軍は一切攻めてこなかったからだ。
魔王軍第6軍団内では、上層部が秘密裏に不可侵条約を結んでいるのではないかという噂まで立っていた。
もしそうであれば上層部の知略に感嘆し、先を見通す偉大な将軍たちを讃えねばならないだろう。
いずれにせよ、王国だけを相手しておけばいいのだ。
東の連中はツイてないな、北方警備は楽なもんだとみな思っていた。
その日もいつもと同じのはずだった。
「おい、葉巻ねーか?」
「ねーよ、ってか警備任務中だろ?」
やぐらにいたゴブリン2体は、今日も今日とて変わらぬ地平線を監視していた。
柵より向こうの大地は連邦領である。
「おーあったあった、1本貰うぜ」
葉巻を持ったゴブリンが火属性魔法を使った。
「おい、火はやめとけって......!」
「へーきへーき、どうせ何も来ねえって――――――よし、つい......」
それが彼らの最後の言葉だった。
やぐらが大爆発で吹き飛び、周囲に破片を四散させたのだ。
「何事だ!!」
国境警備隊長ロームは、突然の爆発音と振動を感じ外へ出た。
「警報! 連邦領の地平線になにかがいます! ......いやっ、何かどころじゃないぞ!」
見張りの兵士が遠距離監視魔法を使って確認する。
「てっ、敵襲! 敵襲です! ミハイル連邦の大部隊が国境を目指してこっちへ来ます!!」
「数は!?」
「数え切れません! 地面が二分に敵が八分! 繰り返します! 地面が二分に敵がはち......うわああぁぁッ!!?」
突如、魔王軍国境監視所が大量の爆発に包まれた。
出動したスケルトンナイトが吹き飛び、建造物が次々に爆発する。
まるで、炸裂魔法の雨を受けているようだった。
「なんだこれは......!?」
ロームは知る由もない。
連邦軍が開幕から領内で列車砲を発射し、早期警戒所を破壊したことを。
国境監視所を襲う鉄の雨が、後方から撃ち出され続ける《カチューシャ多連装ロケット》による攻撃であることも。
「敵軍、きます!!」
「任せろ! 土属性創生魔法!『クリエイトゴーレム』!!」
魔王軍は迫りくる軍団に対し、爆発の中ゴーレム部隊を編成した。
これなら歩兵ごとき造作もない、本隊到着まで粘れるだろうと確信したのもつかの間だった......。
「ゴーレム部隊被弾! 前衛消滅!」
「なんだと!?」
すぐさま目をやると、いつの間にか歩兵の前に巨像が立っていたのだ。
「あれは......!?」
魔王軍のゴーレム部隊を一瞬で殲滅したのは、連邦軍の誇る《T−34》中戦車の85ミリ砲、および《IS−2》重戦車の122ミリ砲であった。
これらの機甲部隊に、魔王軍の国境警備隊は次々とアウトレンジから攻撃された。
おまけにその数が尋常ではない、30――――60、ひょっとしたら100を優に超えている。
とても歯が立つ相手ではない、すぐさま事態の報告を急いだ。
「魔王城へ緊急!! ミハイル連邦による大規模侵攻作戦あり! 至急援軍を送られたし! 繰り返す! 大至急戦略予備を投入せよ!」
攻防は続けられる。
「25連爆裂魔法! 効果なし!! 敵軍以前侵攻中!!」
「こちら砲兵隊長! 魔導砲発射するも敵戦車の装甲は規格外なり! 効果認められず!」
「第4爆裂魔法陣地の起動を許可する! 直掩に回せ!!」
国境線の爆裂魔法陣地が起動される。
爆発の壁が吹き上がり、砂塵が空中に巻き上げられた。
前衛の連邦軍歩兵がいくつか吹っ飛ぶが、倒した兵士の20倍敵軍が押し寄せる。
「魔導士部隊全滅!」
「こちら第2砲兵隊! 魔導砲陣地の被害甚大! 敵戦車が国境を超えます!!」
「砲撃苛烈なり! 対空陣地全滅! 繰り返す! 対空能力喪失!」
阿鼻叫喚の地獄絵図である。
ロームが確認したところ、ここと同じ事態が他の16の国境監視要塞全てで発生していることがわかった。
各監視所は次々と魔都ネロスフィアへ向け『サヨナラ』の通信を出し続けていた。
そして、今ここも――――――
「連邦軍歩兵がなだれ込んできます! 司令! 脱出を!!」
銃声がドンドン近づいてくる。
「ローム司令! もう敵がそこまで!!」
爆裂魔法陣地は全て起動した。
魔導砲は最後の1門まで撃ち尽くした。
ゴーレム部隊は消滅した。
もう手など残っていない、ロームは最後にネロスフィアへ向け通信を行った。
――――――『サヨナラ』。
この日、連邦軍128個師団は国境を突破。
17ある全ての監視要塞を破壊し、魔王領内へ赤い津波のように押し寄せた。