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第176話 困窮するウォストピア

 

 ――――亜人国ウォストピア首都 ウォストセントラル。


 戦火は止まない、東の要衝を押さえられたウォストピアは苦しい戦いを強いられている。


「お休み......か」


 いつも通っているお気に入りのパン屋が閉まっていた。

 穀倉地帯を押さえられ、代用品ばかりが出回るようになったこの国では、もはや小麦を使ったパンなど一般で口にすることはできない。


 ここのパン屋さんは昔から職人気質だったので、最初こそ代用品でカバーしていたもののクオリティを維持できなくなったのだろう。

 扉の張り紙には「いつかまた美味しいパンを提供できるようになったら再開します」と書かれていた。


「ふぅ......」


 ため息をついて引き返す。

 戦争は続いているのだと実感せざるをえない。


 あの兄を殺した憎き勇者パーティーが、ドンドン近づいてくる。

 仇をこの手で殺したい、でもあの伝説の勇者に勝てるだろうか。


 わたし、サーニャ・ジルコニアはそう思考する度に辟易へきえきとせざるをえない。


 戦う? どうやって。

 あの魔王軍が連敗し、ウォストピアの誇る大要塞まで突破されているのに。


 敵国の軍事力は本物だ、話では魔王軍が魔都ネロスフィア防衛のためにウォストピアから全面撤退しようとしているとも聞く。

 そんなことになれば終わりだ、いや......気づいていないだけでもう終わっているのかも?


 まぁこんなことを公共で口走れば「敗北主義者め」と言われるだけなので胸中で呟く。


 歩いていると、街では息子を戦地に送ったらしい母親グループが話し合っていた。


「ウチの子は無事かしら......、ちゃんと敵兵を倒せてるといいのだけど」

「大丈夫よ奥さん、政府によれば前線では敵を圧倒撃滅してるらしいわ。息子さんもきっと王国人を倒しまくってるわ」

「だといいのだけど」

「政府が言ってるんだから大丈夫よ、近々占領された都市の奪還作戦も開始されるみたいだし。ウォストピアは必ず勝つわ」


 横を通り過ぎると、そんな会話も徐々に遠ざかっていく。

 ここまで生活が困窮しているのに、勝っていると思える脳みそは見習いたいくらいだ。


 さらに街を歩くと、様々な話が出回っていた。


 ある噂では、かつて廃止された徴兵制を復活させて10歳〜70歳の男性全てを根こそぎ動員するなんていうものも立っていた。

 バカげている、そんなことをすればただでさえ困窮している国の生産力はさらに破綻へと向かうだろう。


 下手をすれば、人口ピラミッドそのものが崩れる要因になりかねない。

 そんなことわたしにだってわかる。


 ただ――――


 家の玄関を開け、部屋へ入る。

 そこはかつて兄の部屋だったところ。

 今では遺品整理も落ち着いて、スッキリしてしまった。


「......許せない」


 血が煮えたぎる。

 代用品をいくら食わされようがわたしは構わない。


「絶対に......!」


 徴兵されるならば望むところ。


「勇者パーティー、アルト・ストラトス王国......! お前らだけは!」


 ヤツらは必ずここまでくる。

 確信めいたものがあった、まるで"誰か"に「もうすぐだ」と言われているような。


「絶対に殺す......!!」


 サーニャの瞳は、まばゆい"金色"に染まっていた。


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