第170話 覇王と風神龍の信念
先日作者が大きめの抜歯手術をして、その痛みと腫れで投稿がだいぶ遅れてしまいました(汗)。
お待ちさせてしまい大変申し訳ありません!
「お前は......! お前はなぜ屈しない! なぜ泣かない! なぜそのボロボロの体で立ち向かえる!!」
完全に覚醒したオオミナトへ叫んだクロムは、銃口を彼女へ向け撃ち放った。
高速で飛んだ非殺傷弾は、しかしオオミナトにアッサリと避けられる。
「バカなっ!?」
弾はとても見切れる速度じゃないはず。
だが瞳も髪も銀色に輝く少女は、発射される弾を最低限の動作で全て避けた。
――――カチッ――――
装填していた弾が撃ち尽くされる。
「なら!」
銃を捨て、再び弓を取り出す。
炸裂に誘導、さらには貫通。
常人では決してありえない3属性エンチャントを行う。
「僕は負けないッ! お前に勝つためだけに人間であることを捨て、アーチャーである誇りすら投げ売って銃を取った! お前だけには――――負けられないんだよ!!」
「だったらわたしはそれを超えるだけ! あなたの想いも執念も魂も、全て上から屈服させてやる!!」
「やれるもんなら――――やってみろぉッ!!!」
渾身の一撃を放つ。
「『覇王の一閃』!!」
対戦車ライフル弾にも等しい矢が放たれる。
音速を超えたそれは、おそらく王国軍の前世代型戦車なら正面装甲すら貫くだろう。
突っ込んでくる矢を見据え、オオミナトは大きく息を吸った。
「――――ならそっちこそ、わたしの全てを――――受け止めてみろぉッ!!」
暴風を両手に収束させた。
爆発せしは神にも等しい魔力、風神龍の力でもって初めて繰り出せる最強の魔法。
「滅軍戦技――――『鳳凰暴風陣』!!!」
巨大過ぎる風の奔流がクロムの矢を消し飛ばす。
『覇王の一閃』を飲み込み、道路をえぐって彼へ直撃した。
「ぐあああああぁぁぁぁぁぁぁぁああああ――――――――――――ッ!!!」
横須賀市街を穿つようにしてオオミナトの一撃は吹き荒び、渾身の魔法は在日米軍基地を貫いて東京湾にまで突き抜けた。
魔法を撃ち終えたオオミナトは、膝から倒れ伏す。
投げ出された髪は銀色から黒色へ。
瞳も再び黒へと戻った。
全てをぶつけた。
全てを受け止めさせた。
もう彼女には指先1つ動かす気力さえ残っていない。
「ざまぁ......みろ......ッ」
それだけつぶやいて意識を失う。
砂塵の向こう――――えぐり取られた地面の上で、冒険者クロム・グリーンフィールドは膝をついていた。
「不死身の肉体にダメージが入っているだと......、ありえない、ありえてたまるか! こんな理不尽!」
クロムは1歩、また1歩と気絶するオオミナトへ近づく。
「死ねない死ねない死ねない......! アイツに僕の魅力を叩き込むまでは! 舐め腐った女に僕の力を――――」
落ちていたアスファルトの破片を拾うと、その先端を彼女へ向けた。
「見せつけるまではぁッ!!」
――――ダダダァンッ――――!!!
クロムの胴体に風穴が3つ空く。
あまりに突然、目に見えない攻撃にクロムはその場でフラついた。
「なッ......!?」
聞き慣れた発砲音が響く。
横須賀中央駅の方向を向くと、道路に1人の奇妙な男が立っていた。
そいつは黒い筒を再びクロムへ向け――――
「ウギァっ!?」
再び3点バーストで火を吹いた。
「お前の信念と意地――――見せてもらったぞ、大湊 美咲」
「なんだ......てめえ! なにもんだぁ!!」
オオミナトの傍まで歩み寄ってきた男の姿は奇妙の一言。
全身を緑基調の迷彩服で覆っており、手に持っている銃は王国軍とも連邦軍とも違う。
クロムの問いに、男はニッと笑った。
「しがないアイス屋のおじさん――――――いや、ここに倒れる彼女と同じ日本人......異世界翻弄中のしがない陸上自衛官と言えばいいかな?」
ミクラはセレクターを3点バーストに入れた89式小銃を、クロムへ向けた。




