第17話 トロイメライ騒乱
祭で賑わっていたトロイメライの街は、混乱に突き落とされていた。
あちこちから響く銃声や悲鳴が、その凄惨さを表していた。
「エルドさん! この先の交差点でグレムリンロードが冒険者と戦闘中! 苦戦してるみたいッス」
「全く遊撃部隊ってのはこき使われるな、少佐からの指示は?」
「今は混線が酷くて繋がりません、なのでさっき言われた指示を優先します」
「つまりなんと?」
「『発砲を許可、住民や冒険者を助けつつコロシアムまで来い』とのことでした」
なぜコロシアム? 少佐の狙いはわからないが、今はその指示だけが頼りだった。
しかし––––
「民間人はわかるが、冒険者なら自分で戦えないのか?」
「彼らは中級以下の冒険者ギルドです、上位種ばかりのモンスター相手じゃ歯なんて立ちませんよ」
なぜ雇うにしたって【オールドブレイズ】のような上級ギルドにしなかったのだろう、数だけ揃えてもモンスター相手には無駄だというのに。
「エルドさん! あそこです!!」
そんなことを考えていたら、もう交差点に着いた。
なるほどこれはひどい……、黒く小柄な体躯をしたグレムリンロードの集団が暴れまわっていた。
当の冒険者は既に潰走しており、剣士がこちら目掛けて逃げて来ている。
「アイツら強すぎる! 誰か助けてくれえ!!」
「おい! 横に飛び退いて伏せろ!」
「えっ!?」
「早く飛び退け! 死にたいのか!!」
冒険者が横へ回避すると同時にサブマシンガンを斉射。
剣士の後ろに迫っていたグレムリンロードに風穴を開けた。
「……き、君は!?」
「俺たちは王国軍だ! ここは軍に任せて早く後ろへ下がれ!」
仔猫を脇に抱きながら冒険者を逃がす。
その間も、グレムリンロードはこちら目掛けて突進してきていた。
「なんつー大群だよ! 追いつかねえ!」
「輸送船からも逃げて来たんでしょうね、この量はさすがにキツいッスよ!」
ひたすらに撃ち続ける、乾いた発砲音が重なり、たちまちグレムリンロードの死骸の山が出来上がっていった。
こいつら銃を恐れてないのか? 戦闘狂にも程があるぞ!
「セリカ! 下がれ!!」
エンチャントを発動、サブマシンガンの弾に炸裂魔法を付与してバラまいた。
「グギャアッ!?」
押し寄せていたグレムリンロードを爆発でふっ飛ばし、撤退のスキを作る。
俺たちは自分の元の持ち場へと走った、冒険者をそちらへ逃したのも、この方向に希望があるからに他ならない。
そして、その期待は現実のものとなって目の前に現れた。
「素晴らしい……! 国営パーティーのお仲間だ!!」
防衛線に陣取っていたのは、朝に運搬されてきたあの『魔導戦車』が2両。
随伴歩兵も30人以上おり、俺たちが土嚢の向こう側へ飛び込んだ瞬間、それは放たれた。
『目標正面グレムリンロード! 班集中––––撃てッ!!』
轟音が空気を叩いた。
発射された57ミリ対戦車榴弾が、目前に迫っていたグレムリンロードを粉砕したのだ。
「まだ来るぞ! 撃てッ! 撃てッ!!」
土嚢を盾にして俺たちは撃ちまくった。
烏合の衆とは違う、規律統制された部隊による組織的な防衛戦闘によって、グレムリンロードは為す術もなく全滅した。
中級ギルドとは明らかに違う、洗練された効率的な戦い方だった。
「よーし撃ち方やめ! 君たちはさっきまでここにいたな。中央軍の部隊か?」
「はっ! 中央軍のレーヴァテイン大隊であります」
「レーヴァテイン? あの独立機動部隊か! ならその最新装備も納得だな」
20代後半くらいの小隊長はサブマシンガンを見て頷く。
俺たち以外は、ほぼ全員が1発ずつしか撃てないライフルを持っていた。
このように連射できる銃は、まだまだ配備されていないのだ。
「あのっ、よろしければこの戦車でコロシアムまで送ってくれませんか!?」
突然無茶なことを言い出したセリカに、小隊長も俺も困惑する。
「コロシアムにもモンスターがいると聞くが、なぜ貴官はそこへ?」
「大隊長より命令を受けてのことです、ですがわたしたちの火力のみで突破は不可能です。戦車の支援を受けさせてはもらえないでしょうか?」
「大隊長……? ジーク・ラインメタル少佐か。なるほど」
小隊長さんは悩んでいるようだった。
確かに戦車がいれば頼もしい限りだが、はてさて。
「俺は大丈夫ですよ小隊長殿、ついでに敵の数も減らしてやります」
「––––わかった戦車長、ここはひとまず片付いたし1両だけ貸してやろう。だが無理だと悟ったらすぐに戻ってもらう」
戦車長の後押しで、なんと支援を受けられることが決まった。
世の中頼み込んでみるものだと、セリカを見て思う。
「だってよお嬢ちゃん、小隊長殿のお許しが出たぜ。おいそこの兄ちゃん!」
「え、はい!」
「機銃座に着いてくれ、さっきガンナーがスケルトンメイジにやられてな。軽症だが戦線には戻れそうにない、お前が撃ってくれ」
「まっ……、マジですか」
戦車の上に乗り、歩兵では到底持つこともできない大口径機関銃を操作した。
アーチャースキルや付与魔法があるとはいえ、俺がうまく当てられるんだろうか……。
「それは7.92ミリ機関銃ッス、とにかく撃ちまくれるトリガーハッピー専用の銃なので、民家や人への流れ弾だけ注意して撃てば大抵当たります」
「ホントだな?」
「その嬢ちゃんの言う通りだ、近づいてきたヤツにはぶっ放してやれ! 撃ち放題だからよ」
戦車のエンジンが掛かる
あぁーもう! こうなりゃヤケクソだ! とことんやってやらあ!!
レバーを操作し、弾丸を薬室に装填した。
次回はトリガーハッピー回です。
多大なる応援をくださる同志読者のあなたに感謝を......。