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第167話 邂逅と帰還

 

 工場への入口は想像を超えるものだった。

 一体何年掛ければ空間魔法でこれほどのものを造れるのだろう、そう俺たちは思わずにいられなかった。


「なんだ......こりゃ」


 通路を抜けた先には、なんと"街"が広がっていたのだ。

 しかもただの街ではない、俺のよく知る木組みと石畳の暖色が目立つ景色ではなかった。


「驚いたな......」


 ラインメタル少佐も素直に感嘆する。

 セリカに至っては放心状態だ。


 俺たちは白色の巨大な摩天楼の中心にいた。

 王国では最近整備されたとかいう"車道"なるものがいくつも繋がり、駅と思われる施設もかなり大きかった。

 人が全くいないことを除けばれっきとした街だ。


 しかも、文字が空間魔法の影響なのか全く読めない。

 だが俺たちが不可思議な空間に困惑する中、彼女――――オオミナト ミサキだけは一歩踏み出したのだ。


「おいオオミナト、不用意に進むと危ないぞ......」


 俺の警告の言葉に振り向いた彼女は――――


「っ!?」


 泣いていた。

 吸い込まれるような黒色の瞳から涙を流していたのだ。


「大丈夫かいオオミナトくん?」

「あっ、いえ......。すみません、でもこの光景を見たら涙が止まらなくって......」

「ど、どうしてッスか?」


 俺たちと正対した彼女は、駅を背に黒髪を揺らした。


「ここは、この空間は――――わたしの故郷である日本に......限りなく似ているんです」

「日本だと!? ここが......!」


 天を貫く建造物、どんな魔法を使えばあんなものが造れるのだろう。

 間違いない、日本という国はアルト・ストラトスより70......下手をすれば100年以上もの文明格差があるだろう。

 日本はそれほどまでに発達した国だったのか。


「じゃ、じゃあオオミナトさんはあれが読めるんッスか?」


 セリカが駅を指差す。


「はい、あれは日本語――――『横須賀中央駅』と呼びます。そしてわたしたちが立っているここは、Yデッキと呼ばれる駅前広場です」

「......随分詳しいね」

「はい少佐、だってここは、この横須賀は――――」


 オオミナトは涙を指で拭った。


「わたしの故郷なんですから」


 彼女の声は震えていた。

 故郷に戻れた嬉しさからなのかは測りかねるが、少なくともこの空間は限りなく日本の――――それもオオミナトの故郷である横須賀という地に似ていることがわかった。


「なるほど、空間を無理矢理捻じ曲げた影響だろうな」


 少佐が呟く。


「空間を?」

「ああ、地質調査では王都の地下にこんな空間は存在しなかった。つまり無理矢理空間をいじってできたここは、もっとも座標的に近い別の世界と似てしまった。偽りの産物だ」


 俺の脳裏に、オオミナトと初めて出会った時のことが蘇る。


『わたしは極東の島国からやってきました』。


 あの時は理解できなかった、なぜならアルト・ストラトスこそが極東に位置する国家だったからだ。

 でも今なら納得できる――――王都と横須賀が空間座標的に近いという事実、オオミナトの故郷である日本がこれほどの巨大な国家でありながら今まで認知されていなかった理由。


 考えれば当然、それも簡単なことだったのだ。


「オオミナトさん......君は、異世界から来たのか?」

「はい、たぶん......そうなんだと思います」


 的中か。

 やはり彼女は異世界人。

 いや道理か、そもそも彼女がいつも着ている体操服だって、王国には無い技術で作られている。

 異世界国家たる日本の技術なのだろう。


「さて諸君、感慨に浸っているのもいいが......もう時間はなさそうだぞ」

「えっ」


 ゾクリと寒気が走る。

 慌てて見れば、奥へ伸びる車道――――そこを1人の人間が歩いていたのだ。

 見紛うはずもなし、行方不明となっていた因縁深き追跡魔ストーカー


「冒険者......クロム・グリーンフィールド!!」


 あぁそうだ、ヤツだ間違いない。

 アイツのせいで俺はオオミナトの恋人のフリをしたり、戦闘をするハメになったのだ。


 手すりの上から銃を突き出した時、オオミナトが手で静止してくる。


「なんだ?」

「エルドさん、少佐、セリカさん、ルシアさん......お願いがあります」


 ゴッと風が吹き荒れた。


「アイツの相手は......このわたしに任せていただけませんか?」

「正気かオオミナト、アイツの纏う殺気は異常だ。前回とは比べものにならないんだぞ」

「構いません、それに――――こんなところで足止め食ってるわけにもいかないはずです」


 ......ゴ――――ン! ゴ――――ン......!!


 鐘の音が響く。

 青空の向こうから、不気味なほど綺麗に聞こえてきた。


「どうやらそうらしいね......」


 少佐が広場から下を走る道路に飛び降りる。


「ここは彼女に任そう、ルシアくん。工場最深部へのエスコートを頼む」

「えっ、でも......オオミナトさんが......」

「覚悟を決めた者に水を差す行為は勇者、そして我々軍人のタブーだ。自らの選択を示した彼女の邪魔をする道理はない」


 歯を食いしばったルシアとセリカは、一瞬間を置いたが道路へ俺と飛び降りた。

 オオミナトを残し、ルシア先導の下走り出す。


「なーに、彼女なら心配ない。なにせ僕が見込んだ女の子だ――――あんな野郎に負けはしないよ」

「でも......あのクロムという冒険者、明らかに目が異常でした。絶対危険ですよ!」

「それも含めての選択だろう、彼女の答えを尊重するならこれこそが最適解だ」


 それにと少佐は続けた。


「冒険者が魔王軍に寝返ったとなれば、世論は冒険者に対してバッシングを強めるだろう。あれは彼女なりの責任の取り方だ」


 俺たちの背後で爆発音が轟いた。


「オオミナトくんは同じ冒険者として、クロムとやらがやった不始末にケリをつけようとしている。そして、自分の退路を断つという目的で――――この故郷を戦場に選んだ。邪魔する理由はどこにもない、我々は我々のなすべき仕事をやり抜くぞ!!」




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